(64)二人のモーセと復活体
契約の聖櫃アークを作らせたのは大預言者モーセである。イスラエルの三種の神器もまた、モーセの時代にできた。契約の聖櫃アーク及びイスラエルの三種の神器はモーセ管理下にあるといっても過言ではない。
モーセは約束の地カナンに入ることなく亡くなり、その遺体はネボ山に葬られたが、誰もその墓を知らないと「旧約聖書」に記されている。そのため、一説にモーセは死ぬと同時に、身を変えられて天使になったのではないかという説が古くからユダヤ教にある。
身を変えられるとは、死なない体になることである。不死不滅の復活体とは違う。朽ちる肉体を持ちながら、不老不死になることを意味する。「旧約聖書」にはエノクやエリアなど死なずに天に上げられた者がおり、「新約聖書」でも12使徒のひとりヨハネが不死身となったと噂されている。
ユダヤ教神秘主義カッバーラにおいて、最初に復活体となったのは人類の長兄イエス・キリストなので、それ以前の不老不死の預言者たちは身を変えられた変身体とみなされている。モーセもそうした変身体になった可能性が高い。
その意味で気になるのが「竹内文書」に記されたモーセの名前である。「モーセロミュラス」とある。「ロミュラス」とは何か? 山根キクはロミュラスとは、古代ローマ帝国の始祖「ロムルス」だと指摘する。ローマ神話によると、戦いの神マルスの双子の息子の一人である。弟レムスとともに、出生の因縁により殺されることになるのだが、不憫に思った兵士が籠に入れて川に流す。幸い兄弟は精霊によって助けられ、狼に育てられ、後に成長して古代ローマ帝国を建国する。時代にして、紀元前8世紀のことである。
幼くして川に流されて、後に頭角を現していくあたり、モーセの生涯に似ている。民俗学的には「貴種流離譚」だが、これをもってモーセとロムルスを同一人物とみなしたのだろう。時代的には500年以上の差があり、歴史上の人物として扱おうとするならば、さすがに無理がある。「竹内文書」を肯定的に受け止める研究家も、この問題には触れたがらないようである。
しかし、こういう荒唐無稽な部分にこそ、重要な真理が隠されている。ロミュラス=ロムルスを古代ローマ帝国と読み換えればよい。モーセロミュラスとは、古代ローマ帝国におけるモーセの意味だと解釈できる。実は、古代ローマ帝国にモーセは姿を現しているのである。
「新約聖書」によると、イエス・キリストは12使徒のペテロとヤコブとヨハネの3人を連れて、北方のヘルモン山へ向かったことがある。この時、イエスは白く輝き、そばに二人の人間が現れた。モーセとエリアである。イエスは二人の預言者と語り合ったと記されている。そう、生きたまま天に上げられたエリアと同様、モーセも死んではおらず、不老不死の変身体になっていたのである。
モーセロミュラスという名前には、このことが暗示されている。イエス・キリストが死んで復活した後、預言者はみな復活している。変身体から不老不死の復活体へと更新されている。
ユダヤ教神秘主義カッバーラでは、預言者は死んだ後、天使になると説く。死ぬことなく天に上げられた預言者エノクは天使メタトロンとなり、預言者エリアは天使サンダルフォンになった。人祖アダムは天使ミカエルであり、預言者ノアは大天使ガブリエルなのだ。イエス・キリストもまた、天使命はエマヌエルであり、受肉する以前はイスラエルの守護天使ヤハウェだ。
モーセの天使命は「聖書」に記されていないが、変身体の後、更新して復活体となり、今やイエス・キリストの天使となっている。地上にイエス・キリストが降臨したとき、一緒に現れた可能性がある。
特に契約の聖櫃アークの製造責任はモーセにある。契約の聖櫃アークがあるところには、必ずモーセが姿を現しているはずだ。復活体となった後は、一般の人間の目の前に姿を現したこともあったに違いない。秦始皇帝の時代、契約の聖櫃アークが二つに分けられ、再び日本列島において合体するまで、ずっとモーセは見守っていたことだろう。
最終的に、一つの契約の聖櫃アークとして甦った時、金鵄=イエス・キリストとともに、大天使モーセは現れ、神武天皇との契約を見守っていたに違いない。後に、畿内を中心にして契約の聖櫃アークは各地を巡幸するが、それを見守りながら、時には人々の前に姿を現したことであろう。
ソロモンの秘宝伝説として四国の剣山は有名だが、元伊勢伝承にはないながら、ここにも契約の聖櫃アークは運ばれてきたはずだ。同様に「竹内文書」の聖地、能登半島の二上山や宝達山にも、契約の聖櫃アークは運ばれ、そこに大天使モーセが現れたのではないか。これを伝えるためにも「モーセの墓」が作られたのである。