(27)五色人
超古代アスカ文明の人種について「竹内文書」には非常に興味深い記述がある。
地球上には「五色人」がいたというのだ。五色の色とは肌の色のことである。白人と黒人、更には黄人とくくられる有色人種の他、北欧系の人種を青人、アメリカ先住民らを指して赤人と呼ぶ。
「竹内文書」によれば、上古第2代目「造化気萬男身光天津日嗣天皇」の即位から6億8660万8621歳の時に、天皇の弟妹たち16人が「五色人」を産んだという。彼らが全世界に広がり、鯉のぼりなどにみられる五色の吹き流しは、その象徴であるという。
五色人の吹き流しについては後付けの感もなくはないが、これらの色が道教でいう五行に対応しているのは事実である。とくに四神思想でいう北の玄武=黒、南の朱雀=赤、東の青龍=青、西の白虎=白、そして中央の皇帝=黄帝の玉座である麒麟=黄を前提にしていることは学者でなくても読み取れるだろう。
意外かもしれないが、五色人という概念は「竹内文書」のオリジナルではない。平安時代、すでに知識人の間では五色人と言う言葉が理解されていたらしい。九州の熊本に幣立神宮と言う名の古社がある。ここには一括して「幣立文書」ともいうべき史料があるのだが、その中に「五色人に禄を給へ」という記述が出てくる。「竹内文書」が世に出た時代よりも、はるかに時代を遡る。ゆえに、今でこそ死語になってしまったが、かっては五色人と言う言葉があったことは間違いない。
もちろん、「八咫烏秘記」にも五色人と言う言葉は当然のように出てくる。ただし、意味するところが微妙に違う。とりわけ青人と赤人は北欧の白人種やアメリカ先住民などのモンゴロイドとは、まるっきり違う。青人と赤人は大洪水によって、絶滅してしまったらしい。生き残ったとしてもかなりのマイノリティだったようだ。
長い年月を経た後、白人と黒人、そして黄人の子孫からすれば、ごくたまに遭遇する青人と赤人は異様に見えたらしい。彼らなりの表現を借りるならば「鬼」である。日本古来の鬼は、しばしば「青鬼」と「赤鬼」がワンセットで語られる。鬼と言うが実際は人間である。青人は肌が青、もしくは緑色をしており、対する赤人は赤みが強い褐色をしていたと思われる。現代でも、ごくまれに遺伝子的な異常によって、肌が青くなる人が存在する。記紀には記されていないが、五色人を掲げる「竹内文書」は科学的な真理を内包している。
五色人のうち、白人と黒人、黄人について、「旧約聖書」は直接、肌の色に言及していないが、ノアの子孫の系統を見ると、おおよそ分類ができる。
アダムからノアに至る宗家は基本的に黄人である。恐らく3人の息子の妻に白人と黒人がいたと思われる。セムの子孫は黄人、すなわち黄色人種を含む有色人種で、中東からアジア全域、そしてアメリカ大陸へと広がった。
ハムの子孫は黒人で、アフリカ大陸へと侵出。ヤフェトの子孫は白人で主にヨーロッパに広がった。いわゆるアーリア人である。アーリア人は欧州系のコーカソイドの他、ペルシャ人やインド人も含まれる。
五色人に関して「竹内文書」には、思わずドキリとする場面がある。
「日神天皇詔して、われの臣使へを云ふ。黒石に、黒人祖住みおる。以上を天神7代と云ふと伝ふ」(「神代の万国史」第1編8章 天神第7代の2)
「竹内文書」を描くにあたって竹内巨麿は時代の順番をかなりいじっている。気になるのは黒人だけではなく「黒人祖」と表記している点である。「八咫烏秘記」には、これに似た「黒祖」という人物が登場するのである。「旧約聖書」に比較すると、黒祖は開王=アダムの息子「カイン」としか考えられない。
弟アベルを殺害した人類初の殺人者であるカインは呪いを受ける代わりに、絶対神相手に熟練した交渉を行う。結果、直接的な表現ではないが、カインを殺そうとする者には呪いがかかるという表現で、彼が不死身になったことを示唆する。罪人にとって、ある意味、不死は永遠の苦痛をもたらすのだ。不死身になったカインは、どんなことがあっても死なない。ノアの大洪水という大天変地異であっても死ぬことはなかった。
「八咫烏秘記」には継聖王は「海磐船」を作ったとある。海磐船とはノアの箱舟のことである。海磐船が漂着し、そこから継聖王が出てきたとき、そこには「黒祖」がいたとある。「旧約聖書」によると、ノアの箱舟はアララト山に漂着したが、そこにはカインがいたのだ。アララト山には、かねてからノアの箱舟があると言い伝えられてきた。アキャイラ連山には通称、箱舟地形があるが、これこそ化石化したノアの箱舟である。
このほかに、アララト山にはもう一つ箱舟が存在する。氷河の中に巨大な船が丸ごと埋まっているとして、数々の目撃証言の他、調査も行われている。アメリカ軍は、これはカインの箱舟だったと見ている。中には多くの死体が存在したというから、ノアの大洪水を乗り切ることができずに、みな死んだのだろう。一人、不死身のカインを除いて。彼は同じアララト山に漂着したノアの箱舟を目にして、ずっと待っていたに違いない。ノアと再会したカインは、その後、姿を消した。彼はアララト山を離れて、地上をさまよい続けている。しばしばカインを目撃した人は、その姿を見て驚愕し、まるで人間とは全く異なる獣人だと思ってしまうという。