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「竹内文書」の真相(19)

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(19)修験道と役小角(えんのおづぬ)

 天狗とは本来、流星のことであり、夜空を切り裂きながら地上に落ちて轟音を響き渡らせる姿は不吉の印とされた。日本では妖怪や魔物、鬼のような存在だと考えられ、その姿は、なぜか例外なく山伏の格好をしている。山の中で修業をし、妖しい呪術の使い手である山伏は異形の存在であり、その風貌も異人を連想させる。

 最も象徴的なのは顔であろう。天狗は異様に長い鼻を持ち、大きな目に立派な髭をたくわえている。背中には翼があり、空を自由に飛べる。頭には兜巾、体には手甲脚絆に袈裟、篠懸をまとい、手には錫杖及び法螺貝、時には大きな団扇を持ち、足には一本歯下駄を履いている。

 妖怪の類とは別に、実在する人物を天狗と呼ぶ場合、それは山伏である。つまり、「修験道」の行者「修験者」のことを意味する。修験道は神道と仏教をベースにした神仏混交の宗教である。

 現在は主に密教系の真言宗と天台宗が修験者を束ねているが、すでに奈良時代には雑蜜と呼ばれる呪術が日本に入ってきており、縄文時代からの山伏信仰と相まって山岳修験道が確立した。中でも古代の代表的な修験者が優婆塞として知られた「役小角」である。孔雀明王の呪法による神通力を持ち、葛城山や吉野の金峯山など、全国を巡って峻厳な山々を開いていった。

 役小角もまた、大天狗であり、名を「石鎚山法起坊」という。役小角の場合、天狗と言うより、鬼のイメージが強い。「前鬼」と「後鬼」という二人の鬼を従え、彼自身も名前に「角」を持つ。

 「日本霊異記」をはじめ、多くの書物で描かれる役小角だが、まぎれもなく実在の人物である。正式には「賀茂役君小角」という。つまり、「賀茂氏」である。拠点であった葛城の高賀茂氏の出だとされる。

 賀茂氏は神道の祭祀を取り仕切ってきた一族である。神道の祭祀氏族としては忌部氏や中臣氏、卜部氏などがいるが、これらを裏ですべて仕切ってきているのが賀茂氏なのである。彼らは自らを称して「鴨族」と称す。祭祀一族は密かに鳥の称号を持つからである。

 役小角もしかり。彼は「燕小角」なのだ。同様に、祭祀を司る賀茂氏の先祖には「角」を持つ者もいる。京都・下鴨神社の主祭神「賀茂建角身命」である。その賀茂建角身命の別名を「八咫烏」と言う。

 八咫烏は記紀によると、熊野で道に迷った初代・神武天皇を導いた霊鳥とされる。烏というものの、実際は人間である。八咫烏と呼ばれた神道祭祀の人間がいたのである。つまり、烏の子孫が鴨であり、燕なのである。

 神道祭祀における鳥のシンボルは天狗にもある。天狗は鳥のように空を飛ぶ存在であり、天と地をつなぐ存在なのだ。ゆえに、背中には翼を持ち、配下には烏天狗がいるのである。

 修験道は神道と仏教の神仏混交の宗教だが、もう一つ陰陽道の側面がある。中国に端を発する陰陽五行思想をもとに、縄文時代から続く神道や日本仏教の影響を受けながら、独自に発展したのが陰陽道である。

 日本において陰陽道が確立したのは平安時代である。陰陽道とは森羅万象全てを陰陽の二元論で読み解く思想である。光と闇、男と女、表と裏、右と左、上と下、プラスとマイナスなど、陰陽二つの要素で成り立っている。表と裏の陰陽道がある。表の陰陽道に関しては史料に出てくるので、学問的な対象となるが、裏は、そうはいかない。裏の陰陽道を知る人は少ない。裏の陰陽道の名を「迦波羅(かばら)」という。天狗の役小角が得意とする孔雀明王の呪文にも、迦波羅が出てくる。

 迦波羅はユダヤ教神秘主義「カバラ」のことである。陰陽道は西洋魔術とルーツが同じなのだ。

 表である陰陽道の使い手が「陰陽師」ならば、裏の迦波羅を扱うのは「漢波羅(かんばら)」である。本当の漢波羅は、決して歴史の表に出てくることはない。奈良時代から平安時代にかけて、陰陽道は朝廷の管理下にあった。一般の人間が陰陽道を学ぶことはご法度だった。取り締まりの目をくぐって、民間で活躍した陰陽師はいるが、それも表である。本物の漢波羅ではない。漢波羅は朝廷の権力を超越した存在なのだ。漢波羅秘密組織の名を「八咫烏」と言う。


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