（１５）正統竹内文書と南朝
竹内睦泰氏によると、「正統竹内文書」は正式には「南朝小倉宮正統竹内文書」と称すらしい。つまり、南朝である。歴史的に後南朝である「小倉宮」の名前を冠しているのだ。理由は、南朝小倉宮家の末裔でもあるからだ。
実は、竹内睦泰氏は正統竹内家の現当主だが、血統的には後醍醐天皇の直系なのだ。後醍醐天皇の息子に恒性王（こうしょうおう）がいる。恒性王は越中宮を名乗るが、6代目の惟治王が正統竹内家の武内李治の次女を娶る。と同時に、正統竹内家を継ぎ、竹内惟治と名乗る。ここにおいて、正統竹内家と後南朝は合体。天皇家に伝わる神道秘儀と歴史が正統竹内家にもたらされた。中でも「真床男衾之行法」は北朝には伝わっていないという。
さて、ここにもう一つ、表になっていない歴史がある。正統竹内家を継いだ越中宮惟治であるが、実際は小倉宮の血を引いていた。越中宮第３代の泰治王は小倉宮良泰親王の子供だった。戦乱の中、落ち延びてきた泰治王を第２代の恒泰王はかくまい、越中宮を継がせたという。
したがって、越中宮惟治王が竹内惟治となった時点で、正統竹内家は小倉宮をも継承したことになる。かくして、これ以降、武内宿祢は後南朝、すなわち吉野朝廷の摂政宮祭祀王でもある。現在の当主、竹内睦泰氏は第７３世・武内宿祢であると同時に、南朝小倉宮睦泰王であり、かつ摂政宮神祇伯なのだ。
南朝と合体した正統竹内家だが、意外にも北朝にも仕えている。南朝から皇子をかくまったことにより従三位を授かっている一方で、北朝からは大膳大夫と近江守を授かっている。大膳とは食事のことで、「天皇家の料理番」として活躍することで内裏の情報を収集し、南朝側に伝えていたらしい。まさに天皇の忍びでもあった。
もともと正統竹内家は古来、神道の秘儀と天皇家の秘史を継承してきた。門外不出ゆえ、当然ながら極めて閉鎖的である。ある意味で秘密結社と言っていい。彼らは「竹内神道」と名乗っている。まさに古代からの神道奥義を今に伝えるのが竹内神道なのだ。
秘密結社「竹内神道」は正統竹内家及び後南朝、古神道の家人によって構成される。組織の人間は「門中」と呼ばれる。門中は互いに住所などの連絡先を知らない。組織の中枢は長老家と呼ばれ、１２の家から成る。トップである竹内睦泰氏であっても、長老たちの居場所も知らされておらず、一般に言うところの事務局長のような存在もいない。秘密結社「フリーメーソン」でいえば、ロッジを束ねるグランドマスターが武内宿祢に当たるのだが、必ずしも本家の長男が就任するわけではない。特殊な占いと予言によって、武内宿祢は一族の中から選ばれる。
竹内睦泰氏の場合、１７６７年１２月に亡くなった第６７世、もしくは第６８世・武内宿祢が死の間際に予言を残していた。曰く「１００年後に王政復古を成し遂げた後、９９年後に甦る」と。ちなみに、このあたり、何やら竹内巨麿の「竹内文書」が世に出た経緯に似ているが、これも理由があるのだろう。
いずれにせよ、明治時代になって天皇が政治権力を握ることで予言は的中し、そこから９９年後の１９６６年１２月に、正統竹内一族に一人の男子、竹内睦泰が誕生する。長老たちの厳格なる選定の儀式と太占によって、転生者に間違いないと結論付けられ、ここに第７３世・武内宿祢が正式に襲名することが決定された。
とはいっても、このことは竹内睦泰氏には知らされていない。何も知らないまま成長し、彼が１９歳になったころ、突如、目の前に謎の男が現れた。男は竹内神道における長老の一人だと名乗ったが、睦泰氏には何のことか、さっぱりわからない。辛抱強く耳を傾けて、ようやく事態を把握したと言う。
半信半疑ではあったものの、竹内氏はすべてを受け入れる決断をする。覚悟を決めると、ついに彼は霊嗣之儀式を行い、正式に第７３世・武内宿祢となり、吉野朝廷摂政宮祭祀王に就任する。武内宿祢の霊を身に宿した竹内睦泰氏には、長老たちが秘儀と秘史を伝授していく。１２の長老家は、それぞれ竹内神道の奥義を分担して継承している。すべては口伝ゆえ、対面で伝えられる。その量は膨大であり、今も継承は続いている。長老たちは担当の分野については深い知識と技量を兼ね備えているが、全体像を把握しているわけではない。全てを知っているのは武内宿祢のみなのだ。きわめて特殊なシステムであるため、１０００年以上も時を超えて、秘密が守られ、今日まで存続できたのであろう。貴重な秘伝「正統竹内文書」は今、第７３世・武内宿祢の頭脳の中にある。