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「竹内文書」の真相(11)

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(11)「正統竹内文書」と南朝・竹内神道の謎

 歴史は常に勝者のものゆえ、敗者の記憶は闇に埋もれていく。異端の古史古伝には、みな権力闘争に敗れた者たちの怨念がこもっている。

 「竹内文書」の場合、きっかけは仏教伝来であったが、神代文字から漢字かなまじりに翻訳されたのは、第25代・武烈天皇の時代である。続く第26代・継体天皇は第15代・応神天皇の5世の孫であり、それまでの系統とは明らかに異なる。そのため、王朝が一度断絶したのではないかと考える歴史家も少なくない。つまり、新たな「継体王朝」が成立した可能性があるのだ。

 断絶があったかどうかは別にしても、政治体制が一新され、旧勢力が排除されたことは間違いない。推測すると、彼らが「竹内文書」を手掛けた可能性はある。記紀では武烈天皇に殺害されたことになっている平群真鳥が「竹内文書」を継承したのは、まさに両者が敗れた旧勢力に属する者だったことを示している。殺害は偽装だったとあるが、殺害したと記すことによって、表の歴史から消すことが記紀を編集した新勢力たちの狙いだったのではないだろうか。

 ところが、歴史は繰り返すといったもので、継体天皇以降、大和朝廷は血みどろの権力闘争を経て、中央集権的な権力を確立する。雅な文化が花開く平安時代を迎えるが、やがて武士が台頭し、幕府が設置され、鎌倉時代に入ると、天皇家は「君臨すれども統治せず」という状況となる。隠して政治は幕府によって行われ、天皇もまた時代に翻弄されることとなる。世にいう南北朝時代の始まりである。

 勝者であったはずの継体天皇以降の朝廷が分裂し、互いに争う事態になるのだが、意外なことに、ここで再び「竹内文書」が登場する。敗れた南朝に武内宿祢の直系子孫である竹内家が肩入れするのだ。どうも「竹内文書」のみならず、古史古伝が作られた背景には南朝が関与しているらしいのだ。

 南北朝とは天皇家が二つの系統に分裂し、京都の北朝と吉野の南朝が並立した時代のことを意味する。まず、南北朝について簡単におさらいをする。

 鎌倉時代末期、武士の台頭が天皇家を巻き込み、社会構造が一気に変化し始めた。後嵯峨天皇の退位後、長子の後深草天皇が即位。病弱だった後深草天皇が病に伏せたのを契機に、次子の亀山天皇が即位。自らの子供である世仁親王を皇太子に立てた。だが、これを不服とする後深草天皇は自らの正統性を主張し、ついに天皇家は真っ二つに分裂。後深草天皇の「持明院統」と亀山天皇の「大覚寺統」が並立するという異常事態に発展する。以後、両統は皇位のみならず、荘園をめぐって対立を激化させていくことになる。

 1317年、時の執権、鎌倉幕府が調停に乗り出し、「両統迭立」の和議、すなわち世にいう「文保の和談」を提案。後醍醐天皇の次は同じく大覚寺統の兄、後二条天皇の皇子を即位させるが、その次は持明院統である後伏見天皇の皇子を即位させる。以後、両統が話し合いを通じ、交互に皇位を継承していくということで一応の解決を見た。

 しかし、両統の確執は解消するどころか、逆に激化し、幕府が光厳院を即位させると、大覚寺統の怒りの矛先は鎌倉幕府に向けられる。1333年、大覚寺統の後醍醐天皇は全国の武士に向けて倒幕を宣言。これを受けて、足利尊氏や新田義貞らが参戦し、ついに後醍醐天皇は鎌倉幕府を滅ぼしてしまう。以後、古代のように、天皇が自ら政治を動かす「建武の新政」が行われるのだが、時代は風雲急を告げていた。

 恩賞の問題で足利尊氏が離反する。同じような不満を感じた武士たちが一斉に挙兵。後醍醐天皇は足利尊氏打倒の勅命を出すものの、尊氏は九州まで逃げ延び、そこで力を蓄えた後、持明院統の光厳上皇の勅旨を掲げて東征する。楠木正成を「湊川の戦い」で打ち破ると、そのまま京都へと攻め上る。

 1336年、戦況は足利尊氏が圧倒的有利のまま展開し、劣勢となった後醍醐天皇は、一時和解に応じ、王権のシンボルである三種の神器を手放すことを約束。足利尊氏が擁立した持明院統の光明天皇を受け入れることを表明する。

 しかし、後醍醐天皇は京都を脱出し、奈良は吉野へと潜幸。手渡した三種の神器は偽物であり、王権は今も自らが握っていると主張し、吉野を拠点とする南朝を宣言する。

 かくして、京都の北朝と吉野の南朝と言う二つの朝廷が成立する。以後、1392年に南北朝が合一するまでの鎌倉末期から室町初期までを「南北朝時代」と呼ぶ。


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