(21)ポールワンダリングの要因を検証する!
なぜ、極移動が発生するのかという問題である。古典的な理論も含めて主だった説を紹介する。
①氷床拡大説
ポーリシフトを最初に項に唱えたのが、アメリカの電気技師ヒュー・オーチンクロス・ブラウンだった。1948年にブラウンは、「地球は赤道部分が遠心力によって膨らんでおり、それで回転運動が安定しているが、南極の巨大な氷床が3000~5000mもの暑さになると、もはや安定状態ではなくなる」と訴えた。ブラウンの予測では、ポールシフトが起きた場合、巨大な津波により、ニューヨークは水面から20・8キロも瞬間的に水没してしまい、他の海岸付近の都市の全ても同じ運命をたどると予測した。そのため、ポールシフトの元凶の南極を「輝く死刑執行者」と呼び、その大災害を防ぐには、原爆の集中核爆発で氷床を溶かすしかないと説いたのである。
氷床拡大説を理解するには、「慣性の法則」と「モーメント」を理解せねばならない。「慣性」とは、惰性の事だが、ニュートン力学の基本理論で、物体が外から力を受けない限り、静止、または等速運動をする性質を言う。互いに一定速度で運動しているどの座標(座標系)にもそれは当てはまる。「モーメント」とは、ある点(P)におけるベクトル量と、原点からPに向かう位置ベクトルとのベクトル積を、ベクトル量の原点の回りのモーメントと言う。ベクトル量が、力の時は、「力のモーメント」といい、それは原点回りのトルクの大きさとなる。よって、ベクトルの量が慣性の場合、「慣性モーメント」と言うことになる。なお、ベクトルは速度、力などの大きさ、方向によって決まる量の事で、「スカラー」に対してのことを言う。スカラーとはベクトルに対して言う数の事である。「トルク」とは、回転軸の周りのモーメントの事で、回転軸から力の作用点までの距離と、回転軸と作用点を結ぶ直線に垂直な力の積の事である。
ブラウンは、氷床の異常な増大で地球の曲率が変化し、氷床の遠心力がやがて最大値に達するや、地球を大きくより動かすことに気付いた。曲率とは、球体の曲りの度合いを言う。その結果、首振り運動により氷床が緯度45度付近に達した時、その遠心力は地球の傾く力と回転力を合わせた物に等しくなる。そうなると、増大した遠心力は、やがて公転面の赤道傾斜角度0度の位置で安全を保つ力に変化する。即ち、地球が重い氷床に耐え切れず、一番安定する赤道付近に氷床を倒すことになる。
こうして、地軸は、従来の位置で安定し、地球本体だけが両極地方を赤道付近に残したまま、溶けてしまう古い氷床と、新しく自転極に出来る氷床との調和を保って回転し続けるというわけである。
ブラウンの仮説には2種類の地軸移動が存在する。一つは、地球本体の移動を伴うポールシフトであり、もう一つは地球本体の移動を伴わないポールシフトである。後者は、ポールワンダリングと似ていても否なるものである。ブラウンの「氷床拡大説」も致命的な欠陥が発見された。つまり、両極で形成される氷床の重量では、地軸を傾かせるほどの力が働かないことが判明したからである。
②アセノスフェアの導波層起因説
ブラウンの説に刺激を受け、独自の仮説を打ち出した学者がいる。チャールズ・ハプグッドである。彼は、ブラウン仮説について、3年も研究を費やした結果、致命的な欠点を見つけ出した。そのきっかけは、旧ソ連の地球物理学者ベローゾフが発見した地下約160キロで流動する「導波層」の発見だった。岩流圏の導波層では、あらゆる摩擦が最小限になっていて、滑る運動が起きやすい条件になっているということである。そのことから、ハプグッドは、地球内部のアセノスフェア(岩流圏)の動きにより、地殻が滑ってポールシフトが起きるという説を唱えたのである。即ち、地軸はそのままで、地球の表層部分だけが移動したという仮説を立てたのである。この仮説は、自転軸に変化が起きないため、ポールワンダリングに近い。ところが、なぜそのようなポールシフトが起こるのかの根本原因を提示できず、多くの矛盾を露呈している。しかし、ポールシフトの原因を地球内だけに限定することに限界があることが分かってきたのである。
③MHDエネルギー説
宇宙空間に原因を求めたのがチャン・トーマスだった。彼によると、銀河系には磁気が全く働かない空間があり、その圏内に地球が突入すると、MHDエネルギーの直撃を受け、その結果、マントルがさらに活発化し流動的になるというのである。MHDエネルギーとは、アルヴェーンが発見した磁気流体力学的エネルギーの事で、電気的、磁気的、物理的エネルギーの各頭文字を並べた略称である。簡単に言えば、液体の磁石の力学と言うことである。
アルヴェーンは攪拌機と鏡の間を移動するある種のエネルギーが存在していることを発見し、マクスウェルの電磁気放射を示す3つの方程式に関わることに気付く。それがMHDエネルギーであり、電気的、磁気的、物理的の3つの作用が一つになって、水銀を変化させるエネルギーになったと判断したのである。宇宙の3つの作用(MHDエネルギー)の海原であり、天体内部のMHDエネルギー構造とバランスが保たれている。
地球は巨大な磁石に例えられるが、それは地磁気を持っているからである。その地磁気の主な発生原因となっているのがマントル対流である。トーマスは、MHDエネルギー説を取り入れたのである。即ち、広大な銀河の中にMHDエネルギーは全く存在しない空間がある場合、太陽系全体が無磁力圏(反転地帯)に突入することもあり得ると考えたのである。もしそうなった場合、地球内部のMHDエネルギーはどんどん消滅することになる。すると、その外側にある融解性の層が流動的となり、地殻と地球内部とを接着させておけなくなると考えたのである。つまり、宇宙の磁気消失空間が、アルヴェーンの水銀実験の様に、天体内部の融解性の層を流動化させ、それにより地殻が滑りやすくなるというのである。その結果、マントル層上部の導波層は、一挙に潤滑油の様な役目を果たし、南極の氷床の重さによって、地球が滑り出しポールシフトを起こすという。
ところが、トーマスが考えるような銀河系無磁力圏なるものは、今まで一度も発見されたことはない。
④小惑星衝突説
隕石や彗星を含む小惑星に原因を求める仮説が登場することになる。実際の計算からすると、クレーターを残す程度の小惑星や隕石が衝突したぐらいでは、殆ど地軸に影響が起きないことが判明している。仮に、地軸に大きな影響を与えかねない激突であるならば、クレーターよりも地球そのものが破壊されてしまう。過去にも地球に小惑星や隕石が落下したことは間違いない。だが、地軸が傾斜し、極が180度も移動してしまうような衝撃があったのかという点では非常に疑わしいのである。