(20)ポールワンダリングのメカニズム
なぜ、極移動が起こるのか? そのメカニズムについて専門的になるが「力学的」な部分を押さえておきたい。
スイスの数学者レオンハルト・オイラーが唱えた「剛体力学」についてである。それは、球体の回転軸の自由度6本のうち3本は座標軸であり、結果として回転の自由度が3本になるという理論の事である。つまり、3次元の球体には回転軸が各3本あるということである。それは回転の座標と思ってよく、3つの違った回転を同時に発生させることができる装置を想定すればよい。単純に言えば、「地球ゴマ(ジャイロ・スコープ)」の事である。
剛体力学の言わんとすることは、結局は、地球ゴマの3本の回転軸を合成すれば、どんな回転運動も自由に作れるということである。この力学を応用したのが、飛行機やロケットの姿勢制御装置であり、風圧、引力、動力の影響を相殺する。また、船舶のジャイロ・コンパス(従羅針儀)も、荒波の中でも方位を測定することが出来る。そういう剛体力学の3本の自転軸が地球と言う3次元球体にも存在するということである。
実際に地球ゴマを回した時のことを考える。地球ゴマは回した最初の間は、まっすぐ立っているが、その内に首振り運動を始めてくる。これを「コマのミソスリ(首振り運動)」と言い、地球の運動で言えば、歳差運動の事を指す。回転軸3本のうち1本が今の地軸で、残り2本が地球自体の歳差運動に対応することになる。その首振り運動が地球にもあるため、地軸の運動が不規則となり、地軸が北極星を中心に僅かに振動することになる。これを「章動」と言い、地軸の運動の一つの「チャンドラー搖動」の事である。その現象が起きる要因は二つある。一つは、季節によって変動する気圧と降雪量などの状況である。もう一つは、14か月周期の自由な増幅運動である。それらが互いを打ち消し合っり増幅したりしあい、地球の地軸をチャンドラー搖動でふらつかせるのである。即ち、地球の自転速度が遅くなるに従い、コマが倒れるのと同じ理屈で地軸が倒れることになる。これは「逆立ちゴマ」を思い浮かべればいい。その逆立ちゴマを回すと、その内にユラユラ揺れる首振り運動を始めるが、ある傾斜角度まで来ると、一瞬にして逆立ちしてしまう。しかも、逆立ちゴマの回転方向は、逆立ちしても同じ方向である。さらに、逆さまになる途中でも、回転軸の位置は絶対に変わらない。首振り角度に関わらず、鉛直方向のままである。しかし、その一方で、逆立ちゴマの表面における回転の中心点(極)は、首振りと共に次々とその位置を変えることになる。空間における回転軸の場所は変わらなくても、逆立ちゴマの方が勝手に移動しているからである。これは、逆立ちゴマの揺れた部分が回転軸ではなく、コマ本体だけだったことを示している。それを地球の極ジャンプ(極移動)と呼び、ここではポールワンダリングと言う。これが実際に地球規模で起きた場合、安定を失った地球本体は極地方を伴って、瞬間的に極ジャンプすることになる。
そこで今度は、さらに詳細な極移動を観察するために、3つの軸を持つ地球のジャイロ・スコープモデル(地球ゴマモデル)を作り、実際に極ジャンプする地球の実験データを紹介する。(ただし、この場合、あえて赤道傾斜角度を0度、自転は正常状態とする。)
ある日、地球の回転に何らかの外力が加わったとする。すると、地球は首振り運動始める。赤道傾斜角度が0度のため、歳差運動は含まれず、地軸は公転面に対して直角の状態のまま維持される。この時点で、南極大陸は南極圏には無く、もっと低緯度の地方が自転軸の極地方に回転しながら移動してくるのである。よって、日本も極移動を通過する可能性が出てくる。やがて、首振り運動の角度が大きくなり、90度に達すると、回転前の赤道地帯の何処かが自転軸の中心、すなわち新しい両極になってしまうのである。これが180度となると、南極大陸は北極の位置に来て、北極は南極の位置と入れ替わる。こうなると、まさにホピ族の伝承にある地球の南北が入れ替わった状態になる。
こうして、初めの自転軸上の極が変わるたびに、新しい極が自転軸の位置に来ることになり、つまり地球の傾きが替わったことによって、地球上のどの地点でも自転の中心地(南極か北極)になるということである。その間も、自転は一時も止まっていない。逆回転もしていないのである。こういうポールワンダリングが起きている間は、地上の人間は、場所によっては、天空の太陽が途中で静止したり、逆行して見えたり、一日中昇ってこなかったりするのを体験することになる。
以上が地球ゴマ(ジャイロ・スコープ)理論の応用で起きた極移動の概要である。では、具体的に、極移動を引き起こす原因は何なのか?次回にそのことを考える。