(17)「白い大陸」南極の極寒
南極の事を「白い大陸」と呼ぶことがある。真っ白な万年氷に閉ざされた大陸と言う意味だが、南極は南半球の最果てにあり、生命の息吹を全く感じさせない凄まじい極寒の世界である。南極のイメージは、極寒、氷原、ブリザード、氷山、オーロラの壮大な輝きであろう。
南極を覆い尽くす巨大な氷床は、全てを凍らせる不毛の荒れ野そのものである。内陸部に向かうほど、命有るものは全く存在しない死の世界となる。ペンギンが住むのは、大陸周辺の比較的温暖な地域だけに限られる。南極の氷は北極の量の8倍もあり、氷床の厚さも平均1600mもある。さらに氷の下が海水の北極とは違い、南極の平均気温は北極よりも20度も低い。
地球最大の寒気気団の流れは南側にあり、最果ての頃から一挙に周囲に向かって流れ落ちる。その凄まじいばかりの寒気は、南極周辺の海域を厳しく荒れ狂わせる。南極の寒気がいかに凄まじいかは、南極の同圏内では、樹木一本発見できず、人の住む村も存在しないことでも分かる。唯一例外があるなら、一握りの南極観測所に住む越冬隊員ぐらいで、それも極寒の内陸部を避けた海岸沿いだけであり、日本の南極基地である「昭和基地」も、宗谷海岸から海側に出たオングル島にある。大陸側にできた第2南極基地である「みずほ基地」でさえ、地図で見れば南極の海岸沿いに過ぎない。その理由は、大陸内部では基地そのものを維持できないほど極寒だからである。特に、冬季(夜間)における南極大陸内部の高山の頂は、間違いなく骨も凍る史上最大の極寒地獄である。観測員がいる大陸周辺部でさえ、摂氏零下80度を下回った記録が残されており、未だに誰一人として、冬の内陸部山頂で越冬した人間は存在しない。
寒冷で世界で一番重い南極内部の空気は、視界1m以下と言う猛烈な烈風となり、瞬間最大風速320mもの猛烈なブリザードとして、大氷原を切り裂くように吹き抜ける。北極探検に成功した探検家が、南極では遭難死するのは、読みを間違うからである。北極の寒気で平気なエスキモー犬でも、南極奥地の極寒には耐えられない。
ユーラシアの陸地の平均高度が960mであることを考えると、南極の平均高度が400mなので、いかに南極が高い位置にあるかが分かる。その大半が分厚い氷床なのである。
南極の氷の流れは、中心から四方に向かって放射状に移動していく。こうして出来た氷壁の一つが「ロス海」にある。ロス海の氷壁だけで、海岸線に沿って640キロ、押し出された距離は800キロにも達する。その面積だけでもフランス国土の匹敵する広大さである。巨大な氷床や氷壁を持つ南極なので降雪量も多いだろうと思われるが、事実は全く逆である。年間の降雪量は300ミリしかなく、降水量に直せば、120~130ミリ程度に過ぎない。この降水量は砂漠と同じなのである。なぜなら、あまりにも凄まじい寒さで、空気が大量の水分を含むことが出来ないからである。
南極は冷凍庫のフリーザーと同じ状態であり、南極の氷床は雪が数千年間に降り積もって形成されたものと考えられているが、実は、そうではないのである。事実、南極には氷床がなかった時代が存在した。それは、南極がまだ「超大陸パンゲア」の一部として存在した頃である。超大陸パンゲアがローラシア大陸とゴンドワナ大陸とに分割され、ゴンドワナ大陸から分かれたのが現在の南極大陸である。アカデミズムでも約6億年前の「超大陸ゴンドワナ」、約10億年前には「超大陸ロディニア」、約19億年前には「超大陸ローレンシア」が存在していたことが判明している。ところが、南極と北極の氷床がつい最近できたものだとしたら、それもこの数千年の間に形成されたものだと言えば、果たしてどう思うだろうか?