(40)カナダでも進む「アメリカ離れ」
「アメリカ離れ」には日本以上に属国化しているカナダまでもが参入してきた。今のカナダが石油輸出国化したからである。実際、2018年夏、カナダとサウジアラビアの間に激しい外交闘争が勃発した。一般報道では、「ことの発端は、2018年7月にサウジアラビア政府が人権活動家の姉と弟(サマル・バダウィとライフ・バダウィ)を逮捕し、それをカナダ政府がツイッターで批判したことだった」とされている。
しかし、サウジ側の反応がどうにも激しすぎる。サウジ政府は8月5日にすぐさまカナダとの貿易取引や投資受入れを凍結し、さらに翌6日にはサウジからカナダに留学している学生1万6000人への奨学金を停止し、カナダ国外の大学などに移すことを決定している。
また8月8日、英紙「フィナンシャル・タイムズ」などの一部のマスコミではサウジが保有するカナダの株や債券、通貨、資産などの売却計画も報じられた。他にもサウジ政府はカナダの大使を追放し、カナダとサウジの直行便も取りやめている。
この問題を巡り、カナダ政府はアメリカ政府に対して味方になるよう支持を求めたが、トランプ政権はそれを拒否。その一方で、EUはカナダを支持する声明を発表している。勿論、カナダとサウジの対立は「人権活動家の逮捕」が本当の原因ではない。現在カナダ政府はアジアやアメリカ国内へのエネルギー輸出を猛烈にプッシュしている。エネルギー輸出大国として、カナダはロシアと並ぶサウジのライバル国になった。そのために既存の石油ドル体制の利権に食い込み、奪おうと動き出しているのだ。
また、カナダが推し進める輸出用のエネルギーパイプライン(カナダとテキサス州を結ぶキーストーンXLなど)の建設に対して反対運動を展開する活動家や環境団体の多くがロックフェラーの財団から資金を受け取っているという。要するに、サウジアラビアの石油を管理するロックフェラーやブッシュなどは、自らが所有する石油会社の統制下にないカナダのエネルギー輸出を食い止めたいのである。既存の石油ドル体制が揺らいだ結果、石油利権のパイの奪い合いが起きているのである。
カナダ、ロシア、イラン、トルコ、ベネズエラ、ナイジェリア、シリア、インドネシアなどは、サウジアラビアやアメリカの大手石油会社の影響が及ばない新しいエネルギー市場を作り、取引を始めている。石油生産の枠組みを変えて石油ドル体制に食い込もうと虎視眈々と狙っている。この対立は今後一層激化していくだろう。
その動きは、既存の石油ドル体制を維持しようとするトランプ政権とは相いれない。それがアメリカ離れへとつながっていく構図になっている。
アメリカ経済がどれほど酷い状況なのか? 2017年のアメリカに対する海外からの直接投資の額が前年比で38%も暴落した。さらにサウジアラビアの場合も、「カナダとの外交闘争」や「富豪の財産没収」などといった強硬な態度が反発を呼び、多くの国々がサウジ政府による「石油以外の産業への投資」の呼びかけを無視している。石油ドル体制そのものが、別の産油国によって奪われようとしているのだ。
多くの国が「アメリカ離れ」に走ったのは、ユーラシア大陸のエリートの大部分が「米ドルを中心に動いていた旧体制」とは別の国際体制を構築して、戦争ばかりしている問題児アメリカから一刻も早く離れたがっているからである。
日本とアメリカ以外の主要国は、その動きを察知して中国主導の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」に参加している。そうした背景を踏まえると、トランプの今の貿易赤字に対する取り組みは、各国のアメリカ離れを加速させるだけであり、近い将来、アメリカは倒産し、トランプが最後のアメリカ大統領となるだろう。ただし、アメリカがハードランディングで倒産した場合、世紀末戦争を起こしたがっている連中が、それを理由に一気に戦争を仕掛けかねない。もっと言えば、アメリカ軍の中には「アメリカが倒産するのを黙って見ているくらいなら第3次世界大戦を勃発させて復活を図る」と考える軍人もいる。
一方、金本位回帰を主導してきた中国は、ヨーロッパよりは体力があるとはいえ、構造的な問題を抱えて経済が失速してきた。つまり、「大量投資型の経済成長モデル」が限界に達してしまったのだ。
ソ連は、1930年代から非常に効率よく、高い割合で設備投資を実施することができた。計画経済と統制経済の利点が十分に発揮されたためである。しかし、1980年代に入るとマイナスへと陥った。計画経済と統制経済が一通りいきわたってメリットよりデメリットが強まったためである。
ソ連樹立当時のロシアは、巨大な農業国だった。そのために初期の段階では非常に高い経済効率をもたらした。しかし設備投資が一回りしてしまうと景気後退局面や恐慌と言った経済循環を持たないため、自浄作用が働かず、経済効率が悪化して行った。
1980年代から開放政策に転じた中国も、ソ連同様、効率よく設備投資ができて経済躍進を遂げた。しかし、2010年ごろ、設備投資の需要を一通り満たしてしまい、ソ連崩壊前と同じ壁にぶつかってしまったのだ。
IMFの報告によると、中国国内の銀行貸し出し(借金)の合計は2025年までにGDPの5倍(54兆ドル)に達する見込みだという。しかし、新たに借金して投資に回しても経済成長にはつながらない状況に陥り始めている。
要するに、アメリカやEU中国にとって、既存の国際経済の枠組みは芳しいものではなくなっている。そして1929年の始まった世界恐慌の例を見てもわかるように、国際間で貿易規模が縮小すると悪循環が始まり、誰もが損をすることになる。そうなると、「貿易戦争をやるよりも、今の仕組みを抜本的に変えて全てを再起動した方が得策ではないか」という議論が持ち上がる。「アメリカ軍事政権は、既存システムを一気に変えるために起爆剤として貿易戦争を仕掛けている」という話にも現実味が帯びてくる。
この状況下で、なぜかロシアが2018年4月の米国債保有額を961億ドルから487億ドルに減らし、米ドル離れを加速させている。それを受けてトランプ政権は急にロシアとの首脳会談に意欲を示し始めた。これも既存のシステムを変えるための動きだという。