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金融再起動の最新情報(39)

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(39)「石油ドル体制」を諦めないトランプ大統領

 アメリカの危機をどうにかしようとして大統領になったのが、ドナルド・トランプだった。「アメリカ・ファースト」を掲げて、構造的な貿易・財政赤字の問題を解決しようと躍起になっているのは、信用不安の解消が目的である。そのためにはマイナスの資金の流れ(貿易赤字)をプラスの流れに変える必要がある。だが、打てる手段がほとんどないのが実情である。事実、トランプがやっているのは世界各国に高率の関税をかけ、一方で「アメリカ製品を買え」という押し売りである。買うときはいちゃもんを付け、売るときはごり押しする。これではまともに付き合う国は無くなるだけである。そしてアメリカ離れが始まる。

 トランプ経済政策の問題は、「石油ドル体制」自体が限界を迎えているにもかかわらず、「石油本位制ドルを基軸通貨として維持しよう」としている点に尽きる。そもそもアメリカは「石油ドル体制」ゆえに国力が衰退し、借金が増えたのだ。それをプラスの流れにするには、「石油ドル体制」を解体するしかない。

 ところが、トランプ大統領は、「石油本位制ドルを基軸通貨として維持」を頑なに諦めなかった。トランプにすれば、石油ドル体制で今度はアメリカに儲けさせろ、利益を独り占めする権利がアメリカにあるはずだという気持ちであろう。だが、石油ドル体制によってアメリカが借金をしながら世界中の商品を買いあさってきたのも事実である。トランプの方針は余りにも都合が良すぎる。そのためトランプ政権を支えてきた軍と情報当局の愛国派軍部連合体も政権から距離を置きだし、アメリカ軍でさえ「アメリカ離れ」を起こしかねない状況となっている。

 石油ドル体制は、石油利権をアメリカの軍事力で押さえることでドルを石油交換券にしてきた。そのアメリカ軍が、「アメリカ離れ」をしたらどうなるのか? すでにアメリカ軍はディープ・ステイトが管理する「油田の用心棒」の役目から降りてしまい、ドルは石油交換券の効力を失いつつある。

 2018年5月9日、アメリカは「イラン核合意からの離脱」を表明し、「対イラン制裁」を復活させようとした。これもイラン政府が「今後は原油取引の決済通貨をドルからユーロに切り替える」と発表したのが直接の原因だった。その他にもベネゼエラやロシア、ナイジェリアなども「米ドル以外の通貨」で原油取引すると宣言している。

 石油交換券としてのドルの効力が失われてしまえば、アメリカは今のような巨額の貿易赤字を維持することはできない。トランプが慌てて高率の関税をかけ、世界各国に対して猛烈に「アメリカ製品を買え」と迫ったところで、ドルが暴落しない限り、アメリカの国際競争力が上がることはない。その意味でドルが大暴落した方が、はるかに救いがあろう。だが、ドルは当面下落することはない。ドルの大部分をアメリカ以外の国や企業、個人が保有しているからである。

 ニクソン・ショックを契機に「金・ドル本位制」から「石油・ドル本位制」へと移行し、世界各国は石油資源購入のためにドルを貯め込み始めたその時点で、すでに米ドルは世界の物となり、アメリカの通貨とは言えなくなった。しかも、ドルは人民元などの他国の通貨と連動している。もはやアメリカの一存で勝手にどうこうできるものではないのだ。この状況でトランプが各国にアメリカ製品を押し売りするだけでは「あまりにも足りないし、あまりにも遅すぎる」と言わざるをえない。

 要するに「戦後に作られた貿易ルールや枠組みでは、アメリカが抱える構造的な貿易・財政赤字の問題を解決することはできない」のである。

 世界的なアメリカ離れは、日本の安倍政権ですら「リスクヘッジ」を念頭に置いて動き出している。

 2018年5月8日、中国の李克強首相が日本を訪れた際、突如、「通貨スワップ協定の再開」や「インフラ開発の協力」など、金融経済協力強化の合意は日本の外交スタンスに大きな方向修正を施した。2013年の中国海軍による火器管制レーダー照射事件以降、断絶していた自衛隊との交流も復活、2019年10月の海上自衛隊の観艦式も中国海軍を招待すると正式に発表した。円と元の通貨スワップが再開すれば日本の米ドル離れが加速するのは間違いなく、それを見越して軍事面で中国との和解に動いている。

 サウジアラビアの政権も崩壊寸前となっている。トランプが「ロシアと仲良くしたい」と懸命にアピールするのは、エネルギー資源がロシアやイランなどからEUに流れているのも要因である。実際、イラン政府が「ドルからの脱却」を表明したのは「イランと中国をつなぐ新たな鉄道ルートの開設」が大きく関係している。

 2018年8月10日、アメリカ政府はトルコ製の鉄鋼・アルミニウムに対して関税を2倍に引き上げると発表し、その制裁への懸念からトルコリラが大暴落した。それを受けて8月15日にトルコのエルドアン大統領はアメリカからの輸入品21品目の関税を引き上げる報復措置を発表し、「戦争をする準備はできている」との発言まで飛び出した。その結果、トルコはアメリカ離れを加速させ、ドイツと急接近している。

 当然ながら、トルコとドイツはEUやインド、ロシア、中国など他の多くの国々と同様にアメリカによる対イラン制裁の呼びかけを無視続けている。いずれにせよ、アメリカのトランプ政権が、ドイツを筆頭とするEUやトルコ、ロシア、イランなどに制裁をかけるのは、既存の石油ドル体制崩壊を食い止めるために圧力をかけるしかなく、その結果、アメリカ離れを加速させてしまったのである。


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