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金融再起動の最新情報(38)

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(38)石油ドル体制の管理権を巡る戦い

 現代文明は「石油文明」であり、全ての生活基盤は石油に依存して成立している。正確には化石燃料(石油、石炭、LPG、シェールガス、メタンハイドレートも含む)だが、原子力発電や燃料電池(水素発電)、風力や水力、太陽光の自然エネルギーにせよ、発電設備を作るには化石燃料が必要である。そのため石油は、資源物質でありながら、戦略物質という側面を持つ。商品は市場の需要と供給で価格が決まるが、戦略物質はこの市場原理の枠外にある。市場価格より高くても買うし、原価よりも安くても売る。あるいは高く買うという客に売らないこともあれば、安く売るバイヤーから買わないことも起こる。つまり、石油は市場価格と戦略価格で二重構造となっている。

 通貨もまた、単純な市場原理で価格は決まらない。為替は通貨供給量と需要で判断されず、そこには信用というファクターが入り込むからである。価格は通貨を発行する国家、あるいは中央銀行の信用度によって乱高下する。この信用の担保には、金や銀を使ってきた。安定した貴金属の価格とリンクさせることで通貨に信用を与える手法である。

 しかし、金本位制は金の保有量で通貨供給量が決まるという弱点があった。1925年の世界恐慌の際、金本位制下ではマネーサプライによる積極財政が行えず、当時の列強は相次いで金本位制から離脱した。そして第2次世界大戦後、世界中の金を積み上げたアメリカのドルによって再び金本位制は復活、大戦後に生まれた世界秩序を安定させていった。しかし、世界貿易が拡大していくにつれ、通貨供給量が追い付かなくなり、1971年のニクソン・ショックを経て終了した。これは各国がドルを得るたびに金と交換していたからであり、大量の金の流出でFRBのシステムそのものが破綻した。

 金との交換を止めれば、唯一の国際通貨だったドルの信用をどうするかという問題が出る。そこで旧体制勢=ディープ・ステイトは二重価格という特性を持つ石油とのリンクを考える。つまり、「石油ドル体制」の誕生である。

 戦略物資である石油は生産量や需要予測といったデータで価格は決まらず、価格決定そのものがブラックボックス化している。このブラックボックスを悪用することでディープ・ステイトたちは莫大な利益を吸い上げた。そこに石油ドル体制の問題があった。

 革命はディープ・ステイトたちの支配の源泉となってきた石油ドル体制の管理権を彼らから取り上げることも大きな目的にしてきた。しかし、石油ドル体制を解体するかは決まっておらず、決まっているのがディープ・ステイトたちを追い出すことぐらいなのである。

 これはエネルギーと国際間の取引に使う「ハード・カレンシー」をリンクさせるアイディアそのものは間違っていないためである。そこで、ディープ・ステイトを追い出した後、エネルギー生産と供給と、更に通貨供給量の信用できる管理体制を改めて作るという石油ドル継続派が台頭してくる。その一方、安心感のある金本位に回帰しようという金本位派も登場する。アメリカにすれば、石油ドルの継続が望ましい。現物志向の強い中国は金本位回帰を求めている。かくして新しい国際金融システムを巡る主導権争いは激化している。

 石油ドル体制で最もダメージを受けてきたのが、アメリカだった。アメリカは1980年代から40年以上に渡って巨額の貿易赤字を計上し続けてきた。しかも世界から商品を受け取っても、その代金を支払わずに紙切れ(米国債)を大量に渡すだけという行為を続けてきた。普通の国なら国家破綻していたはずである。しかし既存の石油ドル体制がアメリカの破綻を許さなかった。

 まず石油ドル体制では、日本や中国、EUなどのようにエネルギー資源の大部分を輸入に頼る国は、石油を購入するためにドルが必要になる。そのドルを稼ぐためにはドルの発行元であるアメリカに対して貿易黒字を維持しなければならない。また、世界各国が石油をドルで購入する為にドルへの需要は安定する。結果、いくらドルを刷っても需要があるために価格は維持される。もし価格を維持できないほどになれば戦争などで原油価格を無理やり引き上げて相殺する。石油が戦略物質ゆえにできる仕組みである。

 かくしてアメリカが破綻すれば、世界貿易ができなくなる。黒字国はアメリカの借金である米国債を買う形で支援せざるを得ない。いくらでも米国債を発行し、借金を雪だるまのように膨らませ、ドルをばら撒きながら歴史上最大の借金国家が誕生する。

 これはアメリカにとって恩恵ではなかった。このサイクルで無理やりドルの価格を維持すれば、アメリカ国内産業のコスト競争力を奪い、生産拠点は海外に移転する。為替システムが機能しない以上、産業の空洞化は加速する。

 粉に対する手当は何もなかった。それが国際的な超富裕層=ディープ・ステイトの方針だった。彼らは「世界各国は石油をドルで購入する。そして、産油国が手に入れた巨額のドルを消費やアメリカへの投資などに回せば、ドルは循環し、アメリカに還流される。アメリカが赤字であっても、中近東の資源とドルさえ握っていれば、石油本位体制のビジネスは安泰であり、国家の貿易赤字は関係ない」という構想の下、石油ドル体制を作ったアメリカの産業基盤の空洞化や慢性的な巨額赤字、経済的失速は想定内であった。

 代わりに物造り以外の産業(金融業)を中軸に据える。金融業では高度な教育が前提となる。高度な教育を受けるのは莫大な金がかかる。それを払えない家庭は即座に貧困層へと叩き落され、その一方で世界中から投資が集まる金融業では、億単位の年収を得られ、少数の富裕層を形成する。結果、激烈な格差社会となって貧困層が急増したアメリカは、当然の帰結として国力を落とすことになる。

 ドルの表面的な価値はアメリカの国力に依存する。管理通貨体制の不換紙幣は、建前では発行国の国力と税収を担保にする。借金まみれで低下した国力、少ない税収のままで信用力を維持できるはずがない。ドル離れの始まりである。信用不安を起こしたことでいつ大暴落するのかという懸念が世界中に広まっていく。


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