(37)ロシアの帰属をめぐる東西間の綱引き
バチカンの働き掛けがあったのか、ジュリアーノの顧問団入りから1か月後となる2019年6月8日の「G7サミット」で、トランプ大統領は、突如、「主要国首脳会議にロシアを復帰させるべき」と呼び掛けた。それに応じるように、バチカンのお膝元であるイタリアのジュゼッペ・コンテ首相も「トランプ大統領に賛同する。ロシアを復帰させてG8に戻すことは、誰にとっても利益になる」とツイートしている。
西洋の枠組みで考えた時、最も基本となるのがキリスト教である。西洋はバチカンが中心となってキリスト教文化圏としてまとまろうとしていることがわかる。実際、G7と同時期に開催されていた2018年6月のビルダーバーグ会議に初めてローマ教会の代表が会議に出席した。これはビルダーバーグ会議が1954年に創立されて以来初めての出来事だった。イタリアP2フリーメーソンの幹部たちも「格差問題」と「今後の世界体制」の教義にために参加したと語っていた。
つまり、アメリカの愛国派軍部連合体とイタリアのローマ教会がG8の枠組みを復活させるべきと主張した背景には、ロシア正教という違いはあってもキリスト教文化圏であるロシアを「反欧米同盟」ともいえる中国を中心とした「東側」から引きはがし、アジア=東洋に対抗するための戦略ということがわかる。
その下準備としてバチカン(カトリック教会)は、2016年、ロシア正教と歴史的和解までしている。こうした西側の動きに対し、ほぼ同時期、反欧米でまとまってきたロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が会談し、「中露の関係強化」を打ち出し、中露が主導する「上海協力機構」の首脳会議で中国とロシアが周辺国と連携を強めて共に欧米諸国と対抗していく意図を再確認するなど対抗している。
ロシアとインドがどちらに所属するのか? 東西の間で激しい綱引きが行われていることが理解できる。
アメリカの愛国派軍部連合体とバチカンがロシア取り込みに力を注いでいるのは、「ナチス第4帝国」であったEUの解体が不可避となっているからである。2018年7月11日と12日に開催されたNATO (北大西洋条約機構)首脳会議では、ドナルド・トランプ大統領と欧州の各国首脳との間で再び大喧嘩が勃発し、6月に開かれたG7サミットでの決裂に続き、大西洋をまたぐ「既存の欧米同盟」の崩壊ぶりが浮き彫りとなった。事実、トランプは直後の7月14日、CBSイブニング・ニュースのインタビューで「EUは敵だと思っている」という言葉を使っている。NATOで同盟を結ぶEUに対し、公然と「敵」と言い放ったのだ。アメリカとNATO=EUの対立は、トランプ大統領に原因がある。経営者であるトランプは、有利に商談を進めようとハッタリを噛ますことが多い。ヨーロッパにy大しても「もっとアメリカの武器や石油、ガスを買え」と言い、中国に対しては「対米貿易黒字を何とかしろ」と、最初に会い手が絶対にのめない要求をした後、こちらが「譲ってやった」という形にして有利な条件で折り合う戦法である。NATOに対しても「防衛費が少なすぎる、アメリカ並みの4%のしろ」て平気で言い放つ。拒絶されることを織り込みながら強めの要求をした後、アメリカ製兵器を買わせて矛を収めるのが目的だった。
NATOそのものがすでに時代遅れの同盟であり、欧米ではロシアを含めた大きな国大的枠組みが模索されている。
バチカンが主導するキリスト教同盟の中心はアメリカとヨーロッパが軸になる。ここにロシア正教国家のロシアが加われば、当然の帰結としてロシアとアメリカの間に軍事同盟を結ぶ必要が出て来る。その場合、ヨーロッパからアメリカ軍が全面撤退してNATOを解体後、ロシアがヨーロッパの安全保障を担当する形が予想される。事実、グノーシス派によれば、「今後はアメリカに代わってロシアがヨーロッパ(イギリス以外)の安全保障を担当する」との密約は、すでに欧米軍当局とロシア政府との間で交わされているという。この条件をもってアメリカは米ロを中心としたキリスト教同盟を誕生させようとしている。
そのキリスト教同盟が実現されれば、ヨーロッパで発生する難民問題に対して軍事的行動がとられる可能性が高い。2013年以降、ヨーロッパには500万人以上もの難民が流入している。しかもそのうちの7割が若い男性である。またヨーロッパに向かうシリア何人の内8割が実際にはシリア人ではないという。誰かが大量の人々にシリア国籍のパスポートと、1人につき1日当たり30ユーロほどの資金を提供していることが判明している。これらの動きは単なる難民危機などではないのだ。その目的は、「宗教間で紛争を引き起こすための社会工学的実験の一環」と伝えられている。いわば、300万人の軍隊がヨーロッパに侵入したと同じである。現実問題として、現在ヨーロッパ各地には実質的に独立したイスラエル系移民の居住区が数多く存在している。そうして、そうした地域には当局ですら立ち入ることさえできない。
ヨーロッパがイスラム移民問題で混乱すればするほど、キリスト教同盟は加速する。その意味でもキリスト教同盟という白人国家同盟を組まざるを得ない。
トランプが急に「アフリカ大陸の凶悪で暴力的な紛争の終結を支援する」と発言し、アフリカのことを気に掛ける素振りを見せ始めているのも、欧米勢が資源を強奪してきたアフリカが中国に取られるのを警戒しているためである。東西の枠組みを巡った争いは、今後も激化することが予想される。インド、ロシアを巡った争いは、いずれ日本にも飛び火しよう。日本が厳しい選択を迫られることは間違いない。