(36)マルタ騎士団の正常化派バチカン浄化の第一歩
習近平のイタリア訪問が示すように、西洋側で注目すべきことは、バチカンの動向である。
2018年5月2日、ローマ法王がマルタ騎士団の最高指揮権を完全に掌握した。それによって西洋の枠組みに大きな動きが出てきそうである。
マルタ騎士団の中核メンバーには、パパ・ブッシュやベイビー・ブッシュ、ヘンリー・キッシンジャー、ロックフェラー、ロスチャイルド、エリザベス女王等々、欧米王侯貴族の名前が確認できる。
マルタ騎士団の正式名称は、「騎士修道会」である。国家ではないが、かって領土を有していた経緯から「主権実体」として承認され、104カ国に在外公館を持ち、独自の外交を展開している。
設立は1100年頃、聖ヨハネ騎士団がマルタ島を本拠にしたことで名付けられた。法王と契約して法王の為だけに動く組織である。欧米諸国の軍高官たちのみならず、大物政治家、王族や貴族たちは、それぞれの騎士団に所属し、騎士団を通じてバチカンに忠誠を誓う「騎士団文化」がある。こうした特性からマルタ騎士団は、外面的には慈善団体であっても水面下では1000年以上の歴史と軍産複合体への多大な影響力を持つ欧米裏権力の一翼となってきた。
このマルタ騎士団の第80代総長として「パーパ」ローマ法王に忠実な穏健派である「フラー」・ジャコモ・ダッラ・トーレ・デル・テンピオ・デ・サンギネット副長が選出された。2017年5月から任期1年の臨時総長として務めてきたが、今回の選出で終身の総長となる。
マルタ騎士団は、2017年、総長がスキャンダルで失脚、騎士団内のイギリス派とドイツ派で権力闘争が起こった結果、中立派で法王に忠誠を尽くすダッラ・トーレが臨時総長に就いていた。法王の手足となった功績が認められ、今回の選出となった。
マルタ騎士団は、「欧米社会が大きな戦争に突入するか否か」を決める際に多大な影響力を発揮する。その命令系統の頂点が「旧体制のテロ戦争派」を熱烈に支持してきた前総長「フラー」・ロバート・マシュー・フェステイングから「貧困や環境対策の推進」を指示するジャコモ・ダッラ・トーレに代わったことの意味は非常に大きい。この変化は世界規模で目に見える形で確認できることになろう。
その証拠の一つがフレデリック・マルテル氏が書いた「バチカンの小部屋でー権力、同性愛、偽善」という本である。
マルテル氏は4年もの歳月をかけて教会幹部を含む約1500人の関係者にインタビューを行い、その情報を基に「教会で働く聖職者の8割は同性愛者」と記した。この取材自体がフランシスコ法王の就任時期と一致することから法王の強い意向が働いていた。しかも暴行された修道女がカトリックの教義では禁じられている人工中絶を余儀なくされるケースも少なくなかったとまで記している。
こうしたバチカンの不浄化は「黒いバチカン」べネディクト前法王によって推し進められてきた。部下となる神父たちに悪徳を積ませ、支配してきたのである。結果、風紀が乱れたバチカンでは、2002年に米ボストンのカトリック教会における児童への性的虐待の発覚を皮切りにして世界中の教会の性的スキャンダルが噴出することになる。
これを憂えたフランシスコ法王は、バチカンの正常化のために動き、その手足となるマルタ騎士団の正常化を強く求めてきた。その念願がかなってダッラ・トーレが終身団長に就任、マルテル氏の著書も無事に出版された。また、神父たちが修道女たちを性奴隷にしていたフランスの修道会を前法王が閉鎖させて隠蔽しようとした事件も正式に認めた。これもバチカンの巣くうクリミナル・ディ―プ・ステイトに対するパージであり、現場を指揮していたのはフランシスコ法王の命を受けたマルタ騎士団であった。団長が代わるというのはここまで影響が出るのだ。
内部浄化が終われば、次の対象は欧米社会の特権階層である。バチカンは欧米社会の特権階層を浄化するだけの力を持っている。それ以外ではアメリカ軍による軍事政権が軍事裁判という強権を振るうぐらいしかない。その意味ではマルタ騎士団の正常化は、バチカン銀行の正常化と共に、非常に大きなトピックスなのだ。南米出身のフランシスコ法王の存在は、それほどまでに大きい。ちなみに、2018年4月19日、トランプ大統領の「顧問弁護士チーム」にマルタ騎士団の中核メンバーの一人であるレディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が参加した。トランプ大統領の今後もマルタ騎士団がカギを握っている。