(11)反地球生命体ヤハウェ
太陽系の星々にも生命体としての歴史がある。この宇宙に生まれ落ちたときから今日に至るまで、彼女達は崇高な意識を持ち、あらゆる生物の情報を記録してきた。地球生命体ガイアが地球上に誕生した全ての生物の情報を内核と言うハードデスクに記録しているように、他の惑星や衛星、そして太陽もまた、悠久の歴史を記録している。
原初、太陽系には、太陽のみが存在した。ある時、超弩級火山ヴァルカヌスが大噴火を起こし、巨大な火の玉を次々と誕生させた。灼熱の巨大彗星は比較的質量の小さい方が遠くへ飛んでいき、それぞれ軌道を安定させた。これは今日の海王星、天王星、土星、木星である。
4つの巨大惑星も、やがて火山噴火によって巨大彗星を生み出す。多くは自分たちの周囲を公転する衛星となったが、最大の惑星である木星は状況が異なっていた。中には木星の重力圏を離れ太陽系の惑星となるものも現れた。最初に誕生したのが、惑星NOXとその娘星へメラである。次に水星、地球、火星、惑星フェイトンが生まれた。当初は灼熱の巨大彗星だったが、やがて冷却すると、地球や火星、惑星フェイトンには大気や海洋が生じた。現在地球の衛星である月も、木星から誕生した巨大彗星だった。ある時、地球の重力圏に捕まり、そのまま衛星となった。地球生命体ガイアからすれば、月生命体ディアーナとは姉妹の関係にある。月が衛星として安定軌道になった頃、太陽の活動が活発となり、今日の様に強く光り輝く天体となった。
今から約4500年前、木星の超巨大火山クロノスから巨大彗星ヤハウェが誕生し、超楕円軌道を描きながら太陽系を失踪する。惑星フェイトンに超接近し、潮汐作用で粉々に破壊してしまう。反地球生命体ヤハウェは小惑星フェイトンを殺害してしまったのである。凶暴星と化した反地球ヤハウェは次に火星へと超接近し、惑星フェイトンの破片を火星に叩きつけた。結果、火星の薄い大気ははぎ取られ、海洋は焼失し、荒れ果てた荒野が広がる大地となってしまう。現在、火星生命体マルスは仮死状態にある。
反地球ヤハウェは、その後、地球へと超接近し、月を破壊する。完全破壊は免れたが、月の内部にあった熱水は放出され、ガランドウの地殻だけの状態となっている。月生命体ディアーナの犠牲によって、地球生命体ガイアは被害を免れたが、月の熱水を浴び、反地球ヤハウェの潮汐作用によって、相転移を起こし、急激に体積を膨張させている。これによって引き起こされた天変地異こそ、「ノアの大洪水」である。実は、地球生命体ガイアにとって、絶対に避けることのできない儀式だったのである。
ノアの大洪水以前の地球は、全く違う姿をしていた。地球の表面には大きな海が広がり、大陸は一つだけだった。つまり、超大陸パンゲアである。パンゲアには殆ど起伏が無く、標高の高い山は無かった。地上は高温多湿で、大きな植物が繁殖しており、巨大な生物が闊歩していた。恐竜である。原始地球の重力は今よりもずっと小さかった。それゆえ、生物が巨大化できた。
4500年前、木星生命体ジュピターがガイアの妹の反地球生命体ヤハウェを生んだとき、小惑星生命体フェイトンは死に、火星生命体マルスも瀕死の状態に陥り、ついにはガイアにも危機が迫ってきた。身を呈して守ってくれたのが月生命体ディアーナである。月は、木星の衛星エウロパと同じ氷天体だった。氷の近くの下には熱水が詰まっていた。巨大彗星ヤハウェが超接近した時、潮汐作用によって、氷に地殻が破壊され、内部の超熱水が宇宙空間へ放出してしまう。月の表面ににじみ出た金属核の部分が月の海である。月の海にはレアメタルが豊富にあり、質量の偏り、マスコンがあるのはこのためである。かくして月の内部は空洞となり、金属核は地殻の内側に付着した。重い月の海が広がる面は常に地球を向く。地球から夜空を見上げれば、必ず月の海が見える。
問題は水である。宇宙空間に放出された大量の熱水は絶対零度の中で氷結し、その後、重力に引かれて地球へと落下する。小さかった原始地球の陸地は、水没する。超大陸パンゲアは完全に水に沈み、一時、原始地球は水惑星と化した。全地球水没。これがノアの大洪水である。
恐竜が滅んだ原因はノアの大洪水による全地球水没にある。これにより、地球環境は激変する。雲の層は破壊され、太陽光や宇宙線に地上は晒され、大気組成が一変した。酸素濃度も低くなり、生態系が変化し、月からやって来た膨大な水の分だけ地球の重力が増大した。かくして恐竜のような巨大陸上生物は存在しなくなったのである。