(15)子供の親殺し、親の子殺し
三角医師は次のように問いかける。
「最近、子供の親殺し、親の子殺しと言ったショッキングな報道がテレビや新聞などと通して、やたらと目につくようになった。なぜ、このようなことが起こるのか? 起こるようになったのだろうか? その答えは、意識以前にある。意識だけを対象として、この問題を考えても、抜本的な解決策を見出すことは難しいと思う。人間の生活は、意識的配慮で行われるように見えても、その実態は、本能で感じることが中心になっているからだ」(「心音治療って何?」より)
親は、子をいつくしむ存在である。子は親を慕う存在である。それがお互いに殺し合う。それは自然界ではありえない。その行動の源流は狂気である。では、子を、親を、狂わせたものは一体何だろうか?
三角医師は、それを母子の絆が切れているからだという。
「「心音治療」は、母子の絆を深め、母子のコミュニケーション能力を高めることができる。母子の絆が強くなれば、意識以前にある子供の育つ力が育まれる。そして、子供は元気溌剌になる」
では、なぜお母さんの心臓の音を聴かせるだけで、母と子の絆は深まるのだろう?
「お母さんの心臓は、毎分70回か80回ほどドクンドクンと脈打っています。このお母さんの心臓の音が、赤ちゃんの耳に聞こえるような添い寝をしますと、赤ん坊の不安は解消され、途端にすやすやと寝てくれます」(三角医師)
つまり、お母さんの心臓の音は赤ちゃんに安らぎを与えてくれるのです。こうして、赤ちゃんは安心感に包まれて熟睡します。これは、どうしてでしょうか?
「赤ちゃんがお母さんのお腹の中で、十月十日の間、ずっと聞き続けていた音だからでしょうか?」「心臓の音と言っていますが、お母さんのお腹の中で胎児が聴いていた音は、医学的に言うと、大動脈の拍動音や、小川のせせらぎのような大静脈の摩擦音、それに心臓の鼓動などが混ざり合った音です」(三角医師)
胎児は受精卵から固体の成長するまでに、子宮内で、どんな変化を見せるのでしょうか?
その胎児の成長過程は、ただ驚異というほかありません。胎児は35億年間の生物の進化、5億年の脊髄動物の歴史をさいげんするのである。
「個体発生は、系統発生を繰り返す」(ドイツの学者ヘッケル)
系統発生とは、生物進化のプロセスを表す。
「35億年という生物進化の歴史を、胎児は、母親のお腹の中で再現させています。タン待望の生命から始まり、心臓が動き出し、爬虫類になり、やがて、刻々と人間になっていきます」(三角医師)
この過程では、いわゆる耳の聴覚は、全く発達していません。というより存在していないのです。耳の聴覚が形成されるのは、妊娠後期になってからです。では、成長中の胎児は、一体どこでお母さんの心音を聴いているのでしょう? おそらく、全身の細胞で聴いていたと思われます。それが遺伝子に記憶され、誕生した赤ちゃんの潜在意識に、植え付けられているのではないでしょうか。まさに体内の波動の記憶です」(三角医師)
「絶え間なく響くお母さんの血潮のざわめき、潮騒。子宮の壁をドードーと打つ大動脈の拍動音、小川のせせらぎのような大静脈の摩擦音。そして、空らの彼方に高らかに鳴り響く心臓の鼓動。それは、何か宇宙空間の遠い彼方の銀河星雲の渦巻きを銅鑼にして悠然と打ち鳴らすような生命をはぐくむ絶対的な響きをつい想像てしまいます」「生命の根幹に鳴り響く音霊。それがお母さんの心音です」(三角医師)
ここまで読むと、前項の音響免疫チェアの理論と重なることに気づくだろう。やはり、病気の人に背骨の骨髄から羊水の響きを送り込む。それは三角医師の言う「生命の根幹に鳴り響く音霊」そのものである。「波動医学」において、両者は通底している。それは気功などの他の「波動医学」も同じである。
謂うまでもなく母体内で胎児に絶え間なく送り込まれている響きの最たるものが心音である。胎児に最も身近で、力強く繰り返されるお母さんの心臓の拍動の波動は、胎児を成長させる大きな波動刺激になっていたはずである。だから、病んだ乳幼児にお母さんの心音を聴かせることは、無意識のうちに、その子を母体内での安らぎの記憶へと導くのである。すると、病気のストレスで緊張状態にあった交感神経優位の状態から解放され、副交感神経が優位に安らぎの心身状態に戻っていく。これが「心音治療」が効果を上げる基本的なメカニズムである。