(10)「音響免疫チェア」は脊髄から癒しの音が響く
一見、革張りの高級ソファである。その前には大画面の液晶画面がある。発明者はそれを「羊水の響き」と名付けている。なぜ、羊水か? その中では胎児の命が育まれているからである。「お母さんの身体の中では、まだ胎児は耳が発達していませんね。しかし、お母さんの心臓の鼓動は、胎児に安らぎを与えています。」
にこやかに説明するのは西堀貞夫氏。80歳とは思えぬほど、お肌の血色がいい。ここは、東京・五反田の一画にある西堀氏の研究所。カーテンで区切られた音響ソファが5台ほど設置されている。彼は、笑顔で解説を続ける。
「胎児は、どこでお母さんの心音を聞いているのでしょう? それは脊髄で聴いているのです」
つまり、目の前の黒いソファは、母体の羊水の響きを再現したものだという。
「お母さんは、羊水の響きで胎児を38℃に温め、尿で汚れた羊水を浄化、水分80%の赤ちゃんの細胞を育てます」(西堀氏)
彼の言う「羊水の響き」とは、まさに母体が発する生命の波動に他ならない。母親の体温が36℃でも、羊水や胎児の体温は38℃である。羊水は母体の体温より高い。それは、母体が送る波動エネルギーによるという。電子レンジはマイクロ波の振動で物体を温める。同じ原理で、母体は波動つまり羊水の響きで胎児を温めている。
「まずは、この音響チェア体験してください」
西堀氏に勧められるまま、船瀬氏はスリッパを脱いでソファに横になる。
それは一見、黒張りの安楽椅子である。肘掛けもゆったりしていて、背もたれも深くリクライニングしている。首周りにソフトなクッションがあてがわれる。さらに、頭にタオルがかけられる。周囲に気を散らさないためだろう。目の前に巨大な液晶パネルのテレビが置かれている。
「では、スイッチを入れますね」
女性スタッフの声と同時にテレビ画面に映像が映った。どこかギリシャ神殿のような場所での野外コンサートだ。4人組の男性コーラスが、沸き上がる拍手の中登場した。そして、歌い始めた。仰天した! その天にまで届くかと思える朗々とした歌声が、背中から聞こえてくる。いや、身体の内側からだ。テノールの甘い歌声が響きあがる。まさに神々しいというほかない。こんな体験は初めてである。まるで、自分の体の中がコンサートホールになったかのようだ。目の前の歌手たちは、ステージで歌っている。しかし、その歌声は紛れもなく、体内から響いているのだ。
1時間ほどの音響体験に酔ってしまった。オーディオマニアの方には、是非お勧めしたい。(船瀬氏) 体の中から音楽が聞こえる。これは、普通のスピーカーからは絶対に得られない体感と興奮である。音響マニアにとっては垂涎の装置かもしれない。
「どうでしたか?」(西堀氏)
目の前にのぞき込む西堀氏の笑顔があった。
「凄いですね。体の中から、わくように聞こえてきますよ」(船瀬氏)
「それが羊水の響きなのですよ」(西堀氏)
「体温も上がっていますね」と女性スタッフ。
なるほど、この音響免疫チェアは、音楽などの音響波動で、子宮内の羊水と同じ環境を聴く人の体内に、再現しているのである。
「映画・テレビ・音楽の響きは、糖尿病・高血圧・高脂血症でドロドロに汚れた血液を響きの科学でサラサラに浄化します」(「解説パンフ」より)
さらにこう続く。
「薬を使わず、汚れた血液を浄化する。西洋医学を超えた素晴らしい自己免疫療法です」
これで、音響免疫チェアという名前の由来がわかった。この黒いソファは、画期的な波動療法ツールだったのである。
椅子の背中に当たる部分に、7つのスピーカーが内蔵されている。それは中華医学の「経脈」をつなぐ「経路」「経穴(ツボ)」「脊髄」に、背中から音響を響かせる。その音響振動は背骨の脊髄から脳に伝わり、聴覚野を刺激するのである。だから、空気を媒介して耳から聴く音楽とは、根本的に異なる音響体験となる。
「急所の精髄に響くエンターテイメント療法ですよ」(西堀氏)
「普通の音は、耳から聞くでしょう。それは、鼓膜の振動が聴覚神経を伝わって脳に送られる。しかし、それは単なる紙の鼓膜の振動です。それよりも深い身体共鳴の響きを、体は求めているのですよ」(西堀氏)
なるほど、人も胎児期は、羊水の中で、脊髄の感覚器官で音を感じていた。むろん母親の安らぎの心音も胎児は脊髄で聴いている。音響免疫チェアは脊髄から音が入って来る。それはいやでも母体内での音響体験の記憶に無意識のうちに回帰させる。
「脊髄で音を聴かせる」-言うは易し、行うは難しである。
西堀氏も音響チェア完成までに試行錯誤の苦労を重ねた。まず、羊水の響きの再現には、従来の家具に使われる素材は全く使えない。なぜなら、音響チェア自体が楽器となるからである。彼の頭に浮かんだのは、バイオリンの名器ストラディバリウスである。それは天然ニカワなどすべて自然素材でできている。だから、深く感動的な音色を奏でることができるのだ。
「脊髄に聴かせる音響免疫チェアは波が違うんです」(西堀氏)
「それは横波です。普通の音は縦波です。全く違う。例えば、弦の響きは、水の伝える波状の横波です。胎児期の私たちは母親の母体音の「羊水の伝える生命の生きている水の波紋の響き」を脊髄で感じていました。水の伝える波紋の響きは、身体の水分も共鳴し、身体を温めることができます」(西堀氏)
これに対して、空気の伝えるスピーカー音は縦波だ。これが水の横波と決定的に異なる。
「空気の密度の高い部分と低い部分を伝わり縦波の衝撃波として、鼓膜に響かせます。空気の伝える音は、波動エネルギーの少ない「死んだ音」。空気の伝える縦波は体を温めるころができないからです」(西堀氏)
死んだ音かどうかはさておき、水の横波の方が強いパワーがあることは、誰でもわかる。