(33)「未来記」第四章の全文
「第四章全文」
爾時魔王波旬依仏法而為破僧家 奪領日域而欲為鬼国 故遺三人眷属而為比丘形授邪法魔業 而惑日域衆生欲堕三悪道
(獅子身中の虫現れる)
「第四章 一」
爾時魔王波旬依仏法而為破僧家 奪嶺日域而欲為鬼国
(読み下し文)
その時魔王波旬は仏法に依りて僧家を破らんと為し 日域を奪領して鬼国と為さんと欲する。
(現代語訳)
その時、魔王の波旬が現れて仏法のもとに僧家を破壊し、日本国を奪い取って支配した後、鬼国に貶めようとする。
(現代注釈訳)
「魔王」とは悪霊、それも最大級の悪霊を指す。それは欧米でいう「悪魔 サタン」と同じ存在のことである。悪魔は釈迦が仏陀に解脱する際にも現れたとされている。仏典に記された悪魔は、サンスクリット語で「マーラ」といい、「命を奪う者」の意味である。命とは魂を指す。よって単に殺すのではなく魂を地獄に連れて行くという意味がある。漢字では「魔羅」と記す。その魔王が、仏法を逆手にとって僧に取り入り、その僧を用いて人々を迷わせ、日本を「鬼国」のような残忍な国にするため働き始めるという。
(歴史的事実)
国を奪い取る手段は武力だけではない。ヨーロッパ列強のアジア・アフリカ諸国に対する植民地化への常套手段は、最初にキリスト教の神父や牧師を送り込み、布教してから一気に軍隊で支配する方法だった。白人に逆らえないようにしてから、武力で国を奪い取るのである。
時には大英帝国のように、アヘンを広めて中国を奪略するという行為も平然と行われた。戦後最大のテロ事件として知られる「地下鉄サリン事件」のオウム真理教も、麻原彰晃は、最初、オウム真理教を全国に広め、政党を起こしてから国民強化に乗り出すつもりだった。その後、ナチスのように国を奪い取る計画だった。つまり、宗教は武力と同じ役目を果たすのである。
祭政一致の時代、国家を乗っ取る手段の一つが宗教だった。まず仏教で絶対権力者となり、その権限で朝廷に取り入り政策に関与する。その手で国を動かそうとする俗物は昔から何人もいた。動かすどころか天皇になろうとする輩もいた。最近では、麻原彰晃も天皇になろうとした俗物の一人だ。
歴史的に知られるのは、道鏡という悪僧で、769年、その事件が起きた。道鏡は淳仁天皇が島流しになったことで返り咲いた孝謙上皇に接近すると、病を治せるのは自分だけだと思い込ませた。それを信じた上皇の庇護の中、朝廷内部で権力を増大させた道鏡は、大宰府で神職にあった中臣阿曽麻呂に命じ、八幡神が自分を天皇にするよう命じていると偽証させた。これが「道鏡事件」である。
朝廷は、事実か否かを確かめるため、「宇佐八幡宮」に和気清麻呂を派遣する。清麻呂はご神体の「璽筥」を前に神託を得、道鏡の嘘を暴いたとされる。この清麻呂が、後に平安遷都の重要な立役者となる。
それらとは別に、甘言を持って民の心をつかみ、己の宗派を増大させる輩もいた。「未来記」はそのような者全てが、仏教の繁栄と共に炙り出されると預言する。同時に、この時代に、後の日本を過たせる仏教僧が現れると告げている。
事実、念仏を唱えるだけで成仏ができると説く教えなどは、安易なだけに民の支持を得やすく、法然の死後も様々に増殖して現在に至る。しかし、口先の安易な救いは、仏教界全体の足を引っ張り、結局、レベルを下げて今に至る衰退を招いた。