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聖徳太子の「未来記」開封(22)

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(22)「未来記」第一章の全文

「第一章全文」

「両王諍位二臣論世 黒鼠噉朝食黄龍登金殿 兄王沈西海武士汚禁裡 失寶剣而不止兵乱

 弟王無禪而即位 神璽明鏡依武士再入官闕」

 

(二人の権力者の争いが仕組みを滅ぼす)

「第一章 一」

「両王諍位二臣論世」

(読み下し文)

両王は位を諍い二臣は世を論(あげつら)う。

(現代語訳)

二人の王は位を争い、二人の家臣は政治についてとやかく口を挟む。

(現代注釈訳)

「両王」とは対立する北条義時と後鳥羽上皇のことである。「位」とは支配権のことである。「二臣論」とは臣下らが物事の道理をもって争うことである。つまり、天皇の地位を脅かし、武力で制圧する鎌倉幕府に対して立ち上がった朝廷の倒幕軍のことで、三浦義村の弟の胤義や、多くの御家人たちのことを指す。

(歴史的事実)

 この箇所から、聖徳太子が亡くなった600年後の西暦1222年以降に突入する。当時、鎌倉幕府の北条義時と朝廷の後鳥羽上皇が、互いの勢力を確立するため、相争っていた。土御門天皇が即位してはいたが、実質的な権力は院政によって後鳥羽上皇が握っていた。

 北条義時は、初代執権である時政の子で、2代目の執権として鎌倉幕府で権力を握っていたが、「未来記」の預言が始まる頃は、「承久の変」(1221年)で義時が大軍を京都に派遣し、三上皇の配流と天皇廃立を強行していた。

 結果、六波羅探題が京都に置かれ、京都公家政権を制圧して、鎌倉幕府の執権政治を揺るぎないものにしたのである。

 このことで、「院庁」と「幕府」という二重政権が消滅し、北条家は執権体制を確実なものとした。これ以降、天皇は飾り物に過ぎなくなる。

 その後、武力を持つ武士団が日本を支配する体制が存続し、その体制は江戸時代のみならず、倒幕を成し遂げた明治政府の新たな武力集団(軍部)に引き継がれて昭和に至る。

 聖徳太子の死後600年後に起きた出来事は、このように天皇家の運命を決定的にする出来事が起きていた。当時、「未来記」を見ることは、一部の人を除いて不可能だったが、「未来記」が出た後の人々は、預言の内容が正確だったことを知ることができる。

 

(獣世界同然の人々)

「第一章 二」

「黒鼠噉朝食黄龍登金殿」

(読み下し文)

「黒鼠は朝食を噉らい黄龍は金殿に登る」

(現代語訳)

黒鼠(主家に忠実でない奉公人)は朝食を食らい、黄龍(天子)は金殿において即位する。

(現代注釈訳)

 世の中は、主人に忠実でない鼠のような心根の奉公人で溢れるようになる。朝飯を食らい、中央に出勤するだけの人々も巷に溢れるという意味である。

 院政は後鳥羽上皇へと受け継がれる。いつの時代でも忠実でない者はいる。しかし、時代が乱れ疲弊すると、ますますそのような人々が溢れるようになる。それが「黒鼠」の意味である。

 奉公人は主人を敬わず、雇われた人は金銭をごまかし、子供は目上を馬鹿にして親を親とも思わなくなる時代は決して健全ではない。まして、食っては寝て糞を垂れるだけの生き様は、まるで獣と同じかそれ以下である。「黄龍」は院政を敷いた後鳥羽上皇のことで、「金殿」である院政の勢力が拡大することを指している。

(歴史的事実)

 白河天皇が始めた院政は、鳥羽天皇、後白河天皇へと継承されるが、結果的に朝廷の皇威と皇権を天道から踏み外させる元凶となる。

 事実、「院政」によって貴族同士の権力争いが激化し、武士の力を借りて相手を黙らせることに終始するようになる。

 「保元の乱」(1156年)や「平治の乱」(1159年)は、そういう争いの結果起きた事変で、これにより武士団(源氏・平家)の力が一挙に増していく。その結果、武士によって朝廷が支配されてしまうのである。

 権威のあった中央の力が削られ、武士集団が日本の実権を握ったとあれば、人々は「力こそ正義」と思うようになる。その結果、何が起きたのか?

 従者が主人を打ち倒し、支配することを良しとする風潮が国中に拡大したのである。そういう時代の影響は当の武士にも波及し、やがて鎌倉幕府の崩壊につながり、最後は戦国乱世の下克上へと発展した。

 最初、後醍醐天皇側にいて鎌倉幕府を倒し、その後、後醍醐天皇を裏切り「室町幕府」を起こした足利尊氏の出現は、そんな時代を生み出す胎盤と言えた。


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