(33)「第四の封印」→紀元前1000年~紀元元年の千年紀
イエス・キリストは第4の封印を解いて、紀元前1000年~紀元元年までの千年紀を明らかにした。
その直後、第4の生き物が青白い馬を呼び出した。その馬の乗り手には「死」の名があったとヨハネは記している。果たしてこれは何を意味するのだろうか?
「小羊が第四の封印を開いたとき、「出て来い」という第四の生き物の声を、私は聞いた。そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は「死」といい、これに陰府(よみ)が従っていた。彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた。」(新約聖書「ヨハネの黙示録」第6章7~8節)
紀元前1000年から始まる千年紀は、封印の巻物の第4期に属している。この時代はイエス・キリストが生誕する準備の期間だった。だが、肝心のイスラエルは、ソロモン王の死後、紀元前931年に国が分裂し、「北朝イスラエル王国」と「南朝ユダ王国」に別れて互いに殺し合った。
原因は、神への不信仰の結果発生した邪神崇拝と偶像礼拝にあった。この時の堕落によって、イスラエルの民は、彼らがカナンから追放した異民族と同じ立場に自らを置くことになった。約束の地に住む者の価値の放棄である。
ソロモン神殿の至聖所でさえ、マナセ王の時代には邪教の阿修羅像を奉ったとあり、イスラエルがいかに堕落していたかをうかがわせる。
「マナセは12歳で王となり、55年間エルサレムで王位にあった…(中略)・・・彼は自分の子に火の中を通らせ、占いやまじないを行い、口寄せや霊媒を用いるなど、主の目に悪とされることを数々行って主の怒りを招いた。彼はまた阿修羅の彫像を造り、神殿に置いた。」(旧約聖書「列王記 下」第21章1~7節)
イスラエルの堕落の結果はすぐに現れた。紀元前722年、北朝イスラエル王国がアッシリアによって滅ぼされ、イスラエル10支族が捕囚されてユーフラテス河の彼方に連れていかれたのである。世界史では彼らを「失われたイスラエル10支族」と呼び、いまだに見つからないことから滅亡したとしている。
紀元前586年、南朝ユダ王国は新バビロニア王国によって滅ぼされ、世界史にも名高い「バビロンの捕囚」の憂き目に遭う。それでも救世主の生誕に向けてイスラエル人は準備をしなければならなかった。紀元前538年、メソポタミア地方で力を付けたアケメネス朝ペルシャが台頭して新バビロニア王国を滅ぼした時、キロス2世によって解放された南朝ユダ王国の人々は、約束の地に戻って神殿(第2神殿)を再建し、ユダ王国を築く。ユダヤ人という言葉が生まれたのは、その頃である。
さて、黙示録の「青白い馬」は死体の色を示し、戦争と地獄を象徴している。何しろ選ばれた民だったイスラエル人が、異教徒へと堕落したのである。計り知れない大罪を犯した彼らのほとんどは、異教徒でさえ落ちない獄の深みに落ちたと考えられ、ヨハネも「陰府が従っている」と記している。聖書学的に、善人は死後にパラダイスへ行くとあるが、その反面、悪人に待ち構えているのは獄であり、「最後の審判」以降、最悪の場合は黄泉(陰府)に下る。
青白い馬の乗り手に「死」の名が与えられるということは、その乗り手が善であることはあり得ない。イスラエルから見た場合、乗り手はマナセ王などの極悪な王である。実際、「列王記」に登場する多くの王たちのほとんどが悪王であり、預言者だったエリア、ヨエル、ホセア、アモス、そしてイザヤなどの警告に耳を貸すことはなかった。
青白い馬の乗り手は、1人ではなかった。ヨハネは複数形で「彼ら」と記して、死を背負う王の多さを示している。
一方、この時代になって、地上で初めて本格的な大王が現れている。アレクサンダー大王であるマケドニア王の父フィリッポス2世が暗殺されたことによって王になった彼は、紀元前336年、古代東方世界を征服する。その2年後には、3万5000の大軍を率いてオリエントから中央アジアを制覇し、そのままインドまで大遠征している。
世界的に人口が徐々に増え続けていたこの時代には、大規模な戦争が次々と起きていた。古代中国でも、紀元前403年から本格的な大戦国時代の世が始まり、虐殺の時代が200年の続いた。その戦国時代の最後の登場したのが秦の始皇帝である。大虐殺と恐怖政治で中国全土を支配下に置いた始皇帝は、紀元前210年、世界で最初の皇帝となった。
ローマ帝国が出現したのもこの時代である。伝説では紀元前753年の建国となっているが、本格的に帝国化したのは、紀元前264年から始まる。アウグストゥスがローマ帝国の初代皇帝になったのは、紀元前27年のことでだった。
このように、第4期になって初めて大規模な戦争が長期間行われる時代となり、黙示録でいう「剣と飢饉と死をもって」虐殺が繰り返され、戦争が「地上の四分の一を支配」する時代が訪れたのだ。