(31)モーセによる奇跡と天体現象の関係
地球に大接近した金正を最も如実に書き残しているのは聖書である。ヴェリコフスキーは旧約聖書に注目し、そこに記されてあった数々の異変が、金星と関わる事実をつかんだ。
紀元前1290年、古代エジプトで隆盛を誇ったラムセス2世の前に現れた預言者モーセは、多くの奇跡を起こし、イスラエル人(ヘブライ人)を脱出させた。その時に起きた多くの異常現象の中に、川が血に変わり魚が全滅したという記述がある。
「モーセとアロンは、主の命じられた通りにした。彼は杖を振り上げて、ファラオとその家臣の前でナイル川の水を打った。川の水はことごとく血に変わり、川の魚は死に、川は悪臭を放ち、エジプト人はナイル川の水を飲めなくなった。こうして、エジプトの国中が血に浸った。」(旧約聖書「出エジプト記」第7章20~21節)
古代エジプトの記録「パピルス・イプワー」にも、「この災害で母なるナイル川は血の色に染まり、いたるところが血になった」とある。エジプトの東に横たわる「紅海」の名も、この出来事に由来しているのは間違いない。
ヴェリコフスキーは、この出来事が世界規模で起きていたと判断し、さらに調査を進めた。すると、同様の記録がフィンランドの史詩「カレワラ」や古代ギリシャの「オルフェウス賛歌」にもあり、更にそうなると、旧約聖書に記された現象は、天体規模で起きた大事件だったことになる。
血に染まったと言えば、火星も真っ赤に染まった惑星だ。今では主成分が酸化鉄と判明しているが、それがどこから来たのかがわからない。
妙なことに、酸化鉄の粉末状物質は火星の全面を覆っているわけではなく、惑星の地色があちこちから顔を出している。そして、旧ソ連の「ベネーラ計画」等で、金星表面が赤く覆われていることが判明している。したがって、火星と金星がニアミスした際、金星から火星へとその物質が降り注いだと考えられる。
そうなると、旧約聖書にある他の奇跡も気になってくる。
「二人はかまどのすすをとってファラオの前に立ち、モーセがそれを天に向かってまき散らした。すると、膿の出る腫れものが人と家畜に生じた。魔術師もこの腫れもののためにモーセの前に立つことができなかった。」(旧約聖書「出エジプト記」第9章10~11節)
これは金星から原始大気が吹き寄せられ、未知の細菌かウイルスが地球に降り注いだ影響と考えられる。一部の学者たちは、彗星が地球に接近した時期と、疫病大発生の相互関係を調べた結果、偶然とは思えない一致を見つけている。
疫病だけではなく、様々な気象異変も起きたはずである。
「モーセが天に向かって杖を差し伸べると、主は雷と雹を下され、稲妻が大地に向かって走った。主はエジプトの地に雹を降らせられた。雹が降り、その間を絶え間なく稲妻が走った。それは甚だ激しく、このような雹が全土に降ったことは、エジプトの国始まって以来かってなかったほどであった。雹はエジプト全土で野にいるすべてのもの、人も家畜も残らず打った。」(旧約聖書「出エジプト記」第9章23~25節)
2つの天体がニアミスした場合、潮汐力によって地殻変動が勃発する。また、大規模な気象異変も次々と起きる。だから、未曽有の竜巻、猛烈な雷、巨大な雹の落下などは、エジプトだけで起きていた現象ではなかったと考えられる。
ちょうどこの頃、エジプトと同じ北緯25度付近にあった古代インドのモヘンジョ・ダロ文明が消滅している。あたりには灼熱で焼けただれたガラス地帯が広がっており、なぜそのような状態になったのか、いまだに解明できていない。
古代史研究家のデイヴィッド・W・ダヴェンボートとE・ヴィンセンティは、古代のモヘンジョ・ダロで核戦争が起きていたと発表した。しかし、残念ながらそんなことはあり得ない。
最も考えられるのは、2つの天体間で超高熱プラズマが嵐のように飛び交ったことである。プラズマとは個体、液体、気体に次ぐ段階の状態をいう言葉で、原子核の周囲を電子が回っている原子がバラバラになっている。そうなると、光は四方に照射し、最悪の場合は無限大の超高熱を発する火球となって、生き物のように移動する。それは核爆発で生じた超高熱の火球が、消滅せずに地上をのたうち回る姿と似ている。
モヘンジョ・ダロ遺跡で遺骸が発見できないのは、摂氏4000度をはるかに超える超高熱で、瞬時に灰燼と化したためと考えられる。
プラズマは光を放射するだけではない。中には光を照射しないものや、逆に光を吸収するプラズマも存在する。
「モーセが手を天に向かって差し伸べると、三日間エジプト全土に暗闇が臨んだ。人々は、三日間、互いに見ることも、自分のいる場所から立ち上がることもできなかったが、イスラエルの人々が住んでいる所にはどこでも光があった。」(旧約聖書「出エジプト記」第10章22~23節)
光を吸収するプラズマを「ブラック・プラズマ」現象と考える方が妥当だ。灼熱の金星はプラズマの塊とも言え、そんな天体が地球と大接近すれば、無数のプラズマ現象を起こしたはずである。
ヴェリコフスキーが調査したところ、メキシコの「クラウティトラン年代記」には、火の雨の記録があり、同様の記録は東インド、シベリア、イラクにも残されているという。
ヴェリコフスキーは他にも無数の事例を見つけ出し、一つの理論体系にまとめたものを「衝突する宇宙」として発表した。20世紀中ごろのことである。因みに、ヴェリコフスキーは雹の正体を石油とナフサと考えた。2つとも彗星の尾の材料の炭素と水素でできているからである。