(27)「聖書外典・エノク書」
エノクとはどのような人物だったのか?
それに対する答えは、旧約聖書ではなく「アポクリファ→聖書外典」に見つけることができる。
アポクリファとは聖書に編纂されていない聖典のことで、中には偽書もあるが、昔は異端とされていた黙示録と同じ理由で正典に加えられていない聖典も数多い。「エノク書」も、内容の異様さゆえに、未だにバチカンによって無視されている。
「エノクが人々に語っていた時、主は地上に闇をおくられた。そして闇となり、闇はエノクと共に立っていた人々をもおおった。すると天使たちが急ぎ来て、エノクを連れ去り、上の天に上げた。」(聖書外典「エノク第2書・スラブ語訳」第18章)
「するとミカエルは私の衣類を脱がせ、私によき油を塗った。その油は見たところ偉大な光をしのぎ、油の質はよき露の様で、その香りは没薬の香りの様で、その光は太陽のようである。わたしは自分自身を眺めた。すると栄光の天使と同じようであって、外見の違いはなかった。」(聖書外典「エノク第2書・スラブ語訳」第9章)
天使がエノクの体を支えて飛翔したという一文を、欧米の研究者ならUFOかエイリアンと解釈するかもしれないが、黙示録に限らず、全ての預言の根幹はカッバーラなので、比喩や象徴を紐解かなければならない。注目すべきは、エノクが天使の姿を自分と同じと記していることだ。つまり、天使の翼は生えていないのである。
興味深いことに、エノクの飛翔を手伝った天使たちの行動を、サタンがイエス・キリストを誘惑するために使っている。
「神の子なら、飛び降りたらどうだ。「神があなたのために天使たちに命じると、あなたの足が石に打ち当たることの無いように、天使たちは手であなたを支える」と書いてある。」(新約聖書「マタイによる福音書」第4章6節)
大洪水に先立って天に取り上げられたのは、エノクだけではない。他の「エノク書・スラブ語訳」に義人が複数形で書かれていることからも、それは明らかだ。
「しかし、神は義人たちとだけは和らぎ、選ばれた者たちは譲り、彼らには慈悲を垂れ、彼らは皆神に属する者となり、繁栄し、恵まれ、神の光を浴びることであろう。」(聖書外典「エノク第1書・スラブ語訳」第1章8節)
エノクの町は、最初、悪に染まっていたが、エノクによって全員が悔い改め、大洪水の前に、町ごと天に取り上げられたと伝えられている。ノアの大洪水の直前、ノアの家族以外の儀人は地上に存在しなくなった。大洪水が全地を襲ったのは、その後のことである。
それを知った一人の牧師が1冊の本を著した。その作者の名はジョナサン・スウィフトである。彼は1726年に発表した「ガリバー旅行記」の中で、スウィフトは天空を飛翔する町「ラピュータ」としてエノクの町を扱っている。
エノクが神のために悪と戦い、大勢の人々を勇敢に救ったことから、古代エジプトでは、翼で飛翔する「トート神」となった。さらにエノクの伝承はギリシャにも伝わり「ヘルメス」となって錬金術の神となる。
錬金術は「賢者の石」や「エメラルドタブレット」から派生したもので、原形は「ヘルメス文書」にあった。そのヘルメスについて、14世紀のアラブ人歴史家のアル・マクリージーは、「群国志」の中で以下のように記している。
「最初のヘルメスは「預言者であり、王であり、そして賢者だったことから、3つの顔を持つ者と呼ばれ、大洪水の到来を預言した。また、大ピラミッドを建設させ、その中に、宝物や科学の書物を保管した」
「3つの顔」とはカッバーラの生命の樹であり、3柱の3神のことである。大洪水以前、始祖だったアダムを除いて、エノクほど神の道に勇猛果敢に突き進んだ聖人はいなかった。あのノアでさえ、天に取り上げられたエノクの右に並べなかったのだ。
エノクが生まれたのは、紀元前3000年以前とされ、「創世記」にはアダムの7代目の子孫とある。このことから、第一の封印が解かれたとき、ピラミッドを暗示する至高の三角形の冠をかぶって「白い馬」に乗って登場するのは、悪に満ちた旧世界に勝利し、多くの人々を救ったエノクということになる。