(46)走行距離ガソリン車の3倍の驚異!
ここで、IZAの決定的な超高性能を記さねばならない。
IZAの車格は、トヨタ「マークⅡ」と同じタイプだ。しかし、IZAはガソリン1リットルを発電に回して走行したと換算すると65㎞走る。
マークⅡなど普通車はせいぜい20㎞だ。他方、IZAのリッター当たり走行距離は65㎞。ガソリン車の3倍強だ。つまり、自動車輸送にかかる石油総量は約3分の1で済む。つまり、3分の2の石油が不要となるのだ。さらに、清水氏は素晴らしい事実を語ってくれた。
「日本の乗用車やトラックなど、全てのガソリン車をEVに切り替えても、発電量を10%増やすだけでいいのです」(清水氏)
これは、発電所を現在より10%増設しなければならないということではない。
「夜間電力は余っています。だから、それをEV充電に回せば、発電所の増設は1基も必要ありません」(清水氏)
それだけではない。ホイール・イン・モーターのダイレクト・ドライブ(DD)方式にしたため、従来のガソリン車に不可欠だった駆動系(トランスミッション)が、いらなくなった。ガソリン車の場合、エンジンの回転は、クランク・シャフト→ギア→クラッチ→プロペラ・シャフト→ディファレンシャル・ギア→車輪・・・・と複雑な駆動システムを経て、ようやく車輪の回転運動となる。その間に、エネルギーはロスし、さらに車体重量は増す。当然製造コストも増す。それが、DD方式のEVなら、全て不要となる。
つまり、EVの部品数はガソリン車の約半分になる。それは、重さ、コスト、価格も半減することを意味する。
むろん、代わりに電池が搭載されるが、その低価格化、軽量化で、さらにEVは身近なものになるだろう。
船瀬氏はIZAの登場に興奮し、天才・清水氏との出会いに感激した。IZAが普及すれば、日本は長年の不況から脱出することができる。清水VイズムのEVを大量生産すれば、不況克服どころか、雇用確保で人々は豊かになり、日本は世界に冠たるEV大国として地球経済と技術の発展に貢献できる。
そう信じた船瀬氏は、取材を兼ねて日本の各自動車メーカーにアタックした。
まず、日産。自動車部門の責任者の方に、船瀬氏は熱く語りかけた。
「技術の日産が、IZAを作れば、トヨタも追い越せますよ。世界トップのEVメーカーになれますよ!」
船瀬氏の意気込みに対して、彼は、ためらいがちに口を開いた。
「無理です。日産では、IZAは作れません」
「えー? どうしてですか?」と船瀬氏は思わず大声を出していた。それに対する日産の答えは耳を疑うものだった。
「IZAは余りにも、性能が良すぎます」
船瀬氏は思わず、のけぞりそうになった。
「性能が良すぎて作れない?」
こんなセリフは、初めて聞いた。呆れて天を仰いだ。日産を見限り、マツダを直撃した。
「マツダがIZAを作れば、世界のEVメーカーになれますよ」
「いや、わが社一社では無理です。もはや、これは国策ですから・・・」
日本は、いつから社会主義国家になったんだ!と怒鳴り返してやりたくなったという。
ホンダの回答は、さらにひどかった。対応に出たのは女性の広報部長だった。
「IZAを作ってください」と懇願すると・・・・。
「IZAって何ですか?」
広報部長で、この体たらくである。船瀬氏は思わず説教していた。
「本田宗一郎さんが草葉の陰で泣いていますよ。彼が生きていたらなら自動車吹っ飛ばして見に行ったでしょう。好奇心と行動力こそ、ホンダイズムでしょう」
これに対して、女性広報部長は「ハア・・・」とキョトンとしていた。
最悪はトヨタであった。EV開発について取材を改めてFAXで申し込む。
わざわざ名古屋本社から環境部長氏が上京して取材対応してくれた。隣には若い男性社員。ズバリ、トヨタの電気自動車の開発状況を尋ねる。すると、部長氏は隣に振り向き、「おい、どうなっているんだ?」
若い社員がパンフをひっくり返して「ああ、これですね」と示した写真に目が点になった。ブリキのおもちゃのような不格好な写真。一充電当たりのレンジ(走行距離)を訊く。すると、部長氏「レンジとは? はあ、走行距離ですか。おい、どうなっているんだ」 社員が資料を見つつ「60㎞ですね」に船瀬氏は唖然とした。「たった60㎞ですか?」
「ですから30㎞先は行けんちゅうことですな。戻れんようになりますからなあ、ワッハハ」(部長)
船瀬氏は笑う気もうせて社員に尋ねた。
「バッテリーは何ですか?」
「鉛ですね」
船瀬氏はついにブチ切れた。30年も時代遅れの鉛電池。つまり、トヨタは初めからEVを開発する気はゼロだった。ただ、アリバイ的におもちゃを作っているのだ。
「鉛ですか!天下のトヨタが鉛とは。もう、取材の意味もありません。失礼します!」と決然と席を蹴って東京支社を出た。後には、ハトに豆鉄砲の2人が残った・・・・。以上が日本のEVを巡る顛末である。