(45)電気自動車(EV)を殺したのは誰だ?
船瀬氏は一貫して電気自動車(EV)開発を訴え続けてきた。
一連の著作でも、その必要性を熱く論じてきた。
日本の言論人として、ただ一人、EV導入をアピールし続けてきたと自負している。
EV関連の著作数でも船瀬氏の右に出る者はいない。
日本経済を大きく飛躍させたはずの唯一無二のEV技術なのに、その開発の必要性について、なぜ、メディアは沈黙し続けるのか? 業界はなぜ、躊躇したのか? 政界はなぜ、口をつぐむのか? 世間はEVに無知なのか? 消費者は「EVを作れ!」と声をあげないのか?
結論から言えば、無知の悲劇、臆病の喜劇なのである。
船瀬氏が電気自動車(EV)の可能性に衝撃を受けた事件がある。
それが「IZA(イザ)」の登場である。その時の感動は忘れないという。この「IZA」こそ、「幻のEV」として知る人ぞ知る名車である。開発したのは、たった一人の青年エンジニアである。その名は清水浩。1947年生まれ。東北大学大学院卒(工学博士)。現・慶応大学教授だ。
彼こそは、電気自動車の父の称号がふさわしい。彼こそは世界に誇る日本の頭脳である。
彼は過去30年間で、10車種ものEVを開発し、路上走行が可能な実用車として世に問うたのである。しかし、「ヒロシ・シミズ」の名をメディアはほとんど黙殺して今日に至る。
なぜ、メディアは、学界は、この天才を黙殺し続けたのか?
無知で臆病だったからである。ただそれだけである。
IZAの衝撃を船瀬氏は「地球にやさしく生きる方法」で報告した。書き出しはこうである。
「最高速度時速176㎞、ワンチャージ548㎞、夢の電気自動車はすべてに、画期的技術を導入」「世界最高性能の電気自動車、颯爽と登場・・・」
1991年、IZA実車モデルの走行テストは、茨城県つくば市にあった日本自動車研究所のテストコースで行われた。車体はまだ濃い灰色で、何のマークも入っていない。ゆっくり走りだした流麗なボディからは、ほとんど音はしない。耳を澄ますと、ウイーンという軽いモーター音が聞こえるだけだ。
不気味なほど無音のまま、試走車は150…160㎞と急速にスピードを増していく。物凄い加速力だ。
こうして計測器は見る間に最高速度176㎞(1時間当たり)を表示した。さらに、一充電の航続距離548㎞も立証された。いずれもEVとして、ケタ外れの世界最高記録であった。テストコースの傍らで、力強く握手を交わした2人の男がいた。開発者の清水浩氏(当時44歳)と、製造メーカー、R&D社長の小野昌朗氏(当時45歳)である。
このIZAの超高性能が、いかに驚異的かは現在のEVに比べてもよくわかる。日本の市販EV、日産リーフは最新モデルで、ようやく航続距離400㎞を達成したばかりだ。前モデルは200㎞だった。走行距離を2倍と飛躍的に向上させた日産技術陣の功は多とすべきであろう。しかし、それでもIZAが26年前に達成した548㎞には遠く及ばない。
清水氏は当時、国立環境研究所の一研究員だった。その彼がたった一人でIZAを構想し、計算し、設計図を描き、そして完成させたのだ。船瀬氏はIZAの誕生秘話を「近未来車EV戦略」にまとめた。その帯にはこう記した。
「地球時代。ガソリン車は、もはや過去の遺物。環境危機を救う切り札。今21世紀に向け近未来EVワールドが開く」 とにかくIZAは何から何まで革命的だった。
①航続距離548㎞→これを達成したバッテリーはニッケル・カドミウム電池だ。その容量は現代のリチウム・イオン電池の3分の1強。それでこのレンジ(距離)は驚異的だ。「リチウム電池にすれば一充電で約1200㎞、東京から岡山まで時速100㎞で走りますね」と清水氏は平然と言った。
②最高速度176㎞→これも当時世界最速。その達成には様々な考案、工夫、発明が込められていた。
③ダイレクト・ドライブ→IZAはモーターを車載していない。車輪に内蔵している。つまり、4つの車輪がモーターなのだ。車輪を車体に固定することで、モーター(車輪)が高速回転する。このメリットは従来の自動車に不可欠だった駆動部分が一切不要となることだ。すなわち部品が半減し、製造コスト・重量とも激減する。
④ホイール・イン・モーター→車輪にモーターを内蔵するという奇想天外なアイデアを、簡単に実現してしまった。さらに、希土類とコバルトの合金で強力な永久磁石を製造し、超高性能モーターまで完成させた。
⑤直流モーター→EVで懸念するのが電磁波被害だ。しかし、IZAが採用したのは直流モーターである。これで、電磁波発生を極限まで抑えた。その加速力はフェラーリなど既成のスポーツカーをもしのぐ。
⑥回生ブレーキ→ブレーキをかけると、その制動エネルギーでモーターが発電し、バッテリーに充電される。
⑦空気抵抗→IZAの空気抵抗係数(CD)は0・19。これがいかに驚異的かは、旧来のガソリン自動車が0・45~0・5であることからもわかる。ガソリン車はエンジン冷却用に空気取り入れ口(ラジエター・グリル)が必要だ。だから、完全な稜線系デザインは不可能。しかし、EVのIZAなら流麗なフォルムでそれが可能となった。