(43)「利権ビジネス」で金儲け「クリントン夫婦の錬金術」
ブッシュ一族が世界を支配するために用いたのが、アメリカの軍事力を背景にした「暴力ビジネス」であった。それに対して、クリントン一族が得意としたのが、アメリカの司法権力を背景とした「利権ビジネス」である。
一見、ブッシュ一族よりは上品に思えるが、内実は下劣そのものである。最初に、ビルとヒラリーの夫婦2人による「クリントン流の錬金術」の仕組みを紹介する。
①夫ビルが元大統領の肩書を使って世界中で講演し、巨額の報酬を受け取る。
②講演先の国々で実業家などと会合し、ビジネスに関する相談を受ける。
③上院議員、後には国務長官となった妻ヒラリーの権限で、そのビジネスにかかわる行政・法律上の認可を下す。
④それに前後して巨額の寄付金がクリントン財団に送られる。
*①~④の順は入れ替わることもある。
つまり、ヒラリーが外国の政府や企業、実業者に対してアメリカ政府による政治的優遇を与える。その見返りに受け取るのが個人としてはビルの講演料、法人としてはクリントン財団への寄付である。
クリントン財団はビルが主催する慈善団体で、大統領退任後の2001年に発足した。しかし、疑惑の的となっているクリントン財団には、「クリントン大統領記念図書館」建設の資金集めを名目とした前身団体が大統領在任中から存在していた。
ヒラリーの国務長官時代のロシア疑惑、ハイチ復興の問題が取り沙汰されることが多いが、クリントン一族の政務と私的な金との境界が曖昧な体質は、ビルの大統領在任中から問題視されていた。
1999年、シカゴの弁護士が前身団体「クリントン図書館」に100万ドルを寄付。その後、クリントン政権下の司法省は、同弁護士の虚偽疑惑に対する訴訟を取りやめる。同年、バドワイザーで有名なアメリカ大手ビール製造会社アンハイザー・ブッシュがクリントン図書館に100万ドルを寄付。同時期にクリントン政権は、未成年の飲酒防止のために推進されていた酒類の広告規制を取り下げている。
極め付きは、大物投資家マーク・リッチへの恩赦である。リッチは脱税や不正な石油取引でアメリカ当局により有罪判決が下され、スイスで逃亡生活をしていた。そのような稀代の相場師に対して、2001年1月、大統領任期最終日のドサクサに紛れて恩赦が強行される。
突然の恩赦の裏で、立地の前妻デニス・リッチは、ヒラリーの上院議員選挙に10万ドル、クリントン図書館に45万ドル。民主党に100万ドルをそれぞれ寄付している。一部の良識派メディアから「金で恩赦を売ったのか」と批判が上がった。
ビルの大統領退任後の2001年、ヒラリーは上院議員となり、政界に進出。そして2008年バラク・オバマ政権下で、国務長官の座を手に入れる。国務長官は外交のみならず通商や国家行事も統括する重要なポストである。諸外国の外相と比べて格段に強い権限を持っている。クリントン一族の「利権ビジネス」にはうってつけであった。
国務省を支配する方法として、ヒラリーが使ったのが「特別政府職員(SGE)制度」である。本来は、大学の教授などが本業を続けながら、国政へのアドバイスも兼務できるように作られた制度だったが、ヒラリーが身の回りに置いたのは、クリントン財団の関係者ばかりであった。子飼いの者を配して権力の強化を図ったのである。そして、ヒラリーの国務長官時代に、クリントン夫婦のタッグプレーは黄金期を迎える。
ヒラリーが国務長官だった3年間に、ビルの元には、一度の報酬が25万ドル以上と言う高額の講演依頼がいくつも舞い込んだ。同時期に、クリントン財団は、ヒラリー長官が面会した半数以上に相当する85人から1億5600万ドルもの寄付を受け取っている。そして、ワシントンポストによれば、2001年から2012年までのクリントン夫婦の総所得は、1億3650万ドルに達していたとされる。
アメリカの法律では、政治献金の限度額を設定して寄付金額の情報公開を推進している。ヒラリーが国務長官のポストに就いた際も、任期中にはビルの報酬付きのすべての講演と、クリントン財団への寄付について、国務省倫理局の審査を受ける約束となっていた。だが、この約束はクリントン一族によって悪びれることなく堂々と反故にされた。