(25)ロシアの中東進出は「ソ連崩壊時の復讐」
世界各国が石油ドル体制に見切りをつけている背景には、中東諸国におけるアメリカの影響力の低下がある。アメリカの失墜に反比例して、中東で頭角を現しているのが、中国と対米政策の足並みをそろえているロシアである。
ロシアとそのバックについているロシア正教会は、軍事力とエネルギー資源の豊かさを武器に、EU諸国及び中東諸国に食い込む理由は、国益のほかに、実はもう一つの側面がある。
1991年のソ連崩壊時、ロシアはハザールマフィアによって実質的に支配されていた。ハザールマフィアはソ連を崩壊に導いた後、その国家資産を徹底的に収奪したのだ。そのような中、ソ連時代の共産主義下で弾圧されていたロシア正教会が息を吹き返し、ロシア人の窮状を救うべく立ち上がる。そしてロシア正教会は、ウラジーミル・プーチンの後ろ盾になることで、ロシアの立て直しを図った。
正教会をバックに付けたプーチンは大統領就任後、旧KGB(連邦国家保安委員会)を再結集させて、パパ・ブッシュの手先となったロシア系ハザールマフィアたちを数百人単位で逮捕拘留、または暗殺した。しかし、その程度で、かってロシア正教会とロシア人が味わった苦渋の記憶が薄れるわけもない。
ロシアが中東諸国に進出する理由は、ハザールマフィアに対する経済的復讐の意味合いもある。石油利権の当事者である中東諸国の中にも、アメリカを離れてロシアへと接近する国が増えている。例えば、NATO(北大西洋条約機構)の中でアメリカに次ぐ軍事力を誇るトルコだが、2017年11月13日、ロシアの地対空ミサイルS400を購入したことを発表した。これはアメリカとの同盟関係を断ち切る宣言だといえる。
また、2017年12月にイランで発生した大規模な反政府デモに関して、トルコでは大手メデイアや政府高官による「CIAのマイケル・ダンドレアと言う工作員が、暴力的な抗議活動を指揮してデモを煽っていた」との告発が相次いでいる。以前のアメリカとトルコの関係では考えられないことである。
現在のところ、中東の石油利権の縄張り争いは、ロシア有利に傾きつつある。ロシアは既にアメリカ軍との間で、「中近東地域の石油利権の約半分を確保する」との協定を結んだとされる。つまり利権を山分けしたのだ。
そのような情勢を背景に、2017年11月、ロシアのソチで開かれたロシア、イラン、トルコの3か国首脳会談において、プーチン大統領は「シリアでの国際テロ組織に対する大規模な軍事行動は終わりつつある。ロシア、イラン、トルコの尽力により、シリアの崩壊を防ぐこと、シリアがテロ組織に奪われるのを防ぐこと、人道的大惨事を避けることに成功した」と語った。そして翌12月には、シリアからのロシア軍撤退開始を発表した。中東問題における、欧米勢力に対する勝利宣言とみてよい。さらに、欧米勢力をけん制すべく、プーチン大統領もさらなる軍事産業の強化の方向性を示した。
「欧米の旧体制支配が続くならば、ロシアは戦争も辞さない」と言うプーチンの強いメッセージがうかがえる。2018年に入り、ロシアは新開発のパイプラインを開通させ、中国への原油輸出能力を倍増させた。人民元、ルーブル、金などによる取引がさらに拡大することになり、原油取引からの「ドル=アメリカ外し」が進められているのだ。
さらに、2018年2月、ロシアのドヴォルコーヴィチ副首相は「ロシアはSWIFT(国際銀行間金融通信協会)にアクセスしなくても生き残る準備はできている」と発言した。
SWIFTとは、西側の欧米諸国主導で運営されている「ドルベースの銀行間決済ネットワーク」のことである。欧米勢力は事あるごとに、「SWIFTへのアクセスを遮断して、国際金融ネットワークから締め出す」と世界の国々を脅してきた過去がある。
ロシアは非公式ながら、「もしロシアがSWIFTから撤退すれば、一斉に12か国以上が同調する」とさらなる通告をしているという。プーチン大統領率いるロシアは、ドルシステムに徹底抗議することにより、ハザールマフィアが巣くう欧米の国際金融機関に対しても、一歩も引かない姿勢を示している。