(21)「AIIB]と「一帯一路」で中国が目指す野望
2013年、BRICSの拡大と歩みをそろえる形で、中国主導による国際開発金融機関のAIIB(アジアインフラ投資銀行)が発足した。その後、参加国を増やし、2017年にはアメリカ支配下のADB(アジア開発銀行)を上回るようになった。
そうして、アメリカ大手格付け機関であるムーディーズ・インベスターズ・サービスから、統治の仕組みがしっかりと評価され、最上級の格付け「トリプルA」を取得するまでに成長している。
AIIBの中心的な目的は、習近平総書記によって提唱された、中国を中心とする経済圏構想「一帯一路」の金融面でのバックアップである。
BRICSでは「政治」、AIIBでは「金融」、そして一帯一路では「通商」において、ドル(アメリカ)を排除する大きな流れが生まれたのである。
それでも、アジアの経済力は欧米に敵わないのではないかと感じられる方もいるかもしれない。しかし、欧米勢力が経済的にアジアを凌駕していた時代はすでに終わっている。
実際の経済力を直に反映する購買力平価(モノの値段を基準にした通貨の交換比率)をベースに算出したGDPで見ると、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、日本を合わせても世界全体の40%に満たない。しかし、AIIB加盟国のGDPをトータルすると80%近くを占めるのである。
世界経済の中心は、すでに欧米からアジアへとシフトしているのである。このような流れを受けて、2016年10月1日、IMF(国際通貨基準)は、人民元を特別引き出し権(SDR)構成通貨と認定した。すでにSDRに採用されていたドル、ユーロ、円、ポンドと並び人民元も国際通貨に認められたのだ。欧米側も人民元の力を無視できなくなった。
中国の目標は、人民元をAIIB管轄エリアの基軸通貨にすることである。その先に、人民元を世界の基軸通貨にする未来を描いている。中国は、その世界基軸通貨・人民元への大きな一歩を踏み出した。2018年3月26日、「人民元建ての原油先物の上場」が開始されたのだ。
「中国は、人民元建ての原油先物を3月26日に上場する。中国証券監督管理委員会(証監会)が9日に発表した。中国は米国を上回る世界最大の原油輸入国で、自国の需要動向を国際価格に反映させることを目指す。中国の先物市場として初めて外国人の参加も認める。・・・米エネルギー情報局(EIA)などによると、中国の2017年の原油輸入量は日量840万バレルで、790万バレルの米国を初めて上回った。中国は、最大の輸入国になったのに、欧米主導で国際価格が決まることに強い不満を抱いてきた。原油先物を自国に上場することで既存の価格形成の在り方に一石を投じる」(「日本経済新聞」インターネット版 2018年2月9日付)
香港や上海の取引所では金と交換することも可能である。すでにベネズエラやイラン、ロシアなど、多くの産油国が「金本位制の人民元建て原油先物取引」に応じる方向で動いている。今後、石油ドル体制を支えてきたサウジアラビアをはじめとする湾岸協力会議(GCC)加盟国が追随すれば、国際基軸通貨が「石油本位制の米ドル」から「金本位制の中国人民元」へと置き換わるのも時間の問題である。