(22)魔王の死でスタートした木造ビル建築ラッシュ!
「欧米都市は、ものすごいスピードで木造化が進んでいます」と銘建工業社長の中島浩一郎氏の講演には、衝撃を受けた。2017年11月23日、東京で開催されたシンポジウムで、船瀬氏は共同講演を行った。「これをご覧ください」と中島氏はスクリーンに1枚の写真を示す。英国、ロンドン市街中心部にまっすぐに伸びる超高層の木造ビル、地上315m。80階建て。現在、構想中の「オークウッド・ティンバータワーだ。低所得者の住宅用に建築が予定されている。木造高層ビル建築が構想されているのはロンドンにとどまらない。「スイスでは、すでに高さ100mもの木造ビルが許可されています。英国は現在は60メートルまでOK。オーストラリアのウィーンでは24階建て木造ビルが建設中。それも2017年1月着工、2018年3月完成と言うスピードぶり。この早さは鉄筋コンクリートや鉄骨ビルでは絶対無理。カナダでもバンクーバー市ブリティッシュ・コロンビア大学の8階建て。木造学生寮が完成しています。400人収容で、2017年8月には入居済みです。スイス、チューリッヒでは1950年代の建物を木造に改造しています。すると、建物のエネルギー・ロスが95%も減ったのです。素晴らしい省エネ性能も木造のメリットの一つです」(中島氏)
木造都市シフトも魔王の死が関係している。現在の世界都市は別名コンクリート都市である。原材料の鉄もコンクリートも大量のエネルギーを消費する。つまり、石油を消費する。そして、鉄筋コンクリート建築は長くても約50年しか持たない。だから、建てては壊しのスクラップ・アンド・ビルドが強制される。コンクリート都市は省エネ、エコロジーとは無縁である。木造都市は超省エネとなる。つまり、脱石油志向なのだ。しかし、世界皇帝は脱石油の動きを絶対に許さなかった。見逃さなかった。特に、日本では、木造都市の「も」の字も言えぬ雰囲気だった。船瀬氏は孤立無援で木造都市の夜明けを訴え続けてきた。それが2017年に激変した。魔王の死で、全世界で一斉にスタートした。満を持していた世界の建築会社はアクセルを踏み込んだ。まさにEVシフトの自動車会社とそっくりである。
目先のきく建築家なら、木造の利点はご承知だ。コスト、工期さらに快適性、審美性から建築寿命とあらゆる面でコンクリートや鉄筋より優れている。戦後の建築は木造にシフトしていたはずだったがそうではなかった。一つは、ネックがあった。それが防火性だ。コンクリートは燃えない、木は燃える。しかし、実は木造ビルは燃えにくいのだ。木造構造は火災で表面が燃えると、そこに炭化して外部からの酸素を遮る。すると、それから奥に燃えていかない。これを業界では「燃え代」と呼ぶ。それに比べて鉄筋構造は火災に弱い。燃えない代わりに高熱で飴のように溶けて建物全体が崩れ落ちる。鉄骨ビルと木造ビルでは、鉄骨の方が半分の時間で燃え落ちる。しかし、一般的には木造ビルに対して、火災の不安がどうしてもある。「センサーとスプリンクラーの充実で高層ビルが可能となったのです」(中島氏) つまり、全室、初期消火による防火体制を確立したのだ。
木造ビルでありながら鉄骨、コンクリートと同等の耐火性能を獲得したのが山形県の株式会社シェルターである。同社は日本の木造ビル建築のパイオニアだ。木村一義社長が開発したKES構法は、木造接道金具として驚異的な性能を誇っている。木骨構法では世界屈指の性能であり、他の追随を許さない。同社の耐火構法も世界では群を抜いている。石膏ボードと集成材を多層にし、ついに2017年12月に「3時間耐火性能」をクリアーした。それは世界のいかなる木造構法規制もクリアしたということだ。
先見の明のある建築家は、木造ビルを独自に提案し続けてきた。横内敏人氏が提案してきた木造高層ビルは「日満里桜(ひまりろう)」と言う。設計した横内氏は「技術的には明日からでも建築可能」と言うが、日本には耐火、高さ、などの何重にも嫌がらせのように、木造建築には規制の枷がはめられてきた。それで、絶対に建築不可能とあきらめているのだ。ところが、魔王の死後、一斉に始まった木造ビル建築ラッシュに、この「日満里桜」未来都市型の市庁舎として、建築可能となることは確実だ。
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトは海岸に学生たちを連れていき、貝殻を採取させ、その構造を学ばせたという。自然界の事物はすべて合理的な構造をしているからである。すべて国産杉材と格式会社シェルターのKES構法で完成させた「愛工房」ビルがある。この先進的な世界初の低温木材乾燥プラントを発明した伊藤好則氏が建設した。彼は建築には関しては全くの素人であった。それが超高性能装置を発明してしまったのだ。だからこの世は面白い。