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世界皇帝の死(19)

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(19)EVを殺した失われた30年

 EVの父・清水浩氏がかって世に送り出したスーパーEV社「IZA」は、あらゆる面で驚異的だった。何と約30年前の快挙である。それは実車モデルで1充電548㎞走行、最高速度・時速167㎞と言う当時の世界最高性能を誇った。船瀬氏はその快挙に興奮し酔った。そして日本中の自動車メーカーが、IZAを量産すれば日本は世界のEV大国になれる。長い不況からも脱出できると考えた。それで各メーカーを回りIZA量産を説得した。しかし、各社は異様に腰が引けていた。日産は「わが社では無理。IZAは余りに性能が良すぎる」と耳を疑う回答だった。性能が良すぎるから作れないとは・・・・? マツダは「わが社一社ではできません。これはもう国策ですから」という。日本はいつから社会主義国家になったのか? トヨタは「わが社開発EVは1充電60㎞」とおもちゃレベルで話にならない。ホンダの広報部長は「IZAって何ですか?」と言う。日本の各メーカーのお粗末さに、船瀬氏は声を失った。

 清水浩氏は余りに超高性能の電気自動車を開発したため、国立環境研を追われるように退職した。その後、慶応大学から招聘され、学生たちと10車種ものEVを完成させている。すべてナンバープレートを取得。いつでも路上走行が可能な実車モデルである。例えば、「KAZ」は8人乗りリムジンで、最高速度310㎞。「ルシオール」は前後2シートのEVコミュータ。加速性能などはベンツを上回り、太陽電池パネル装置でソーラーカーに変身する。「エリーカ」は最高速度370㎞のウルトラEVだ。

 EVの天才のあふれるような才能と情熱にはただただ舌を巻く。船瀬氏は著作、講演で、これらEV車種を量産するよう、声を涸らして訴えてきた。しかし、笛吹けど踊らずであり、むなしく月日だけが過ぎてしまった。そして、世界最高性能EV「IZA」が開発されて30年もの年月が流れてしまった。そして、魔王死す。突然起きた2017年ショックが世界に衝撃を与えている。脱石油、EVシフトー船瀬氏が夢にまで見た緑の文明の扉が開かれた。しかし、この人類史における第2の産業革命とでも呼ぶべき大変動に日本だけが取り残されている。欧米自動車メーカーはしたたかだった。石油王が高齢であることから、その最期を予見し、その時に備えて密かにEV開発を行っていたのだ。表向きは素知らぬ顔でディーゼル車開発などで、お茶を濁しながら、実は陰で超高性能EVの開発を進めてきた。その先端を走るのがテスラ社のEVだ。最新モデルは1充電走行距離は、1000㎞以上をクリアした。新車では史上最高記録を達成している。さらに、スウェーデン、ボルボ社の新型EV「ポールスター」も性能ではテスラに肉薄している。これに比べて日本の日産「リーフ」は約400㎞であり、彼らとの差は余りにも大きい。さらに、ドイツの名門メルセデス・ベンツも2022年までに、全車種をすべてEV化すると発表した。

 これら欧米の最新EVは、1充電の走行距離は800~900㎞はざら。日産のリーフなど足元にも及ばない。トヨタ自社制作EVの60㎞などおもちゃである。

 2017年ショックにおける全世界のEVシフトは、まさに日本にとって未曽有の国難である。このまま推移すれば日本経済はさらに沈み、失業者はあふれ、円安は進み、日本はアジア最貧国にすらなりかねない。「日本にはエンジンやハイブリッドの優れた技術がある」とうぬぼれている向きもあるだろう。しかし考えてほしい。10年、20年先、販売禁止になるような車を誰が買うのか?それは中古車としても売れない。つまり、無価値となる。確かに、現時点では欧米やインドでも、ガソリン車やディーゼル、ハイブリッド車は販売可能だ。しかし欧米各国は近い将来、これらの販売を禁止することを公的に発表している。それはEU全体の決定になるだろう。インド、中国もEVシフトを明確にした。もはや、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッドの3大エンジン車は過去の遺物なのだ。日本政府よ、自動車メーカーよ、学界よ、国難の時である、今こそ一致団結せよ。目の前にあるEV開発競争に勝ち残れなければ日本の未来はない。EVの天才・清水浩博士を中心に官民学の頭脳を集結して、国家レベルの開発プロジェクトを結成せよ。30年前に、たった一人で世界最高性能のスーパーEVを開発した頭脳だ。国難の今、彼は最大限に持てる力を発揮してくれるだろう。それ以外に日本の生き残る道はない。


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