(12)ロシア首脳発言の国際常識
2015年8月22日、ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の択捉島へ上陸し、ロシアの実効支配を強くアピールした。これは、日本がアメリカと共同してロシアのウクライナ介入を批判し、経済封鎖に協力した結果だった。岸田文雄外相はアファナシエフ駐日ロシア大使を外務省に呼び、「北方領土への訪問は日本の立場とは相いれず日本国民の感情を傷つけるもので極めて遺憾」と抗議をした。
それに対し、ロシアのロゴジン副首相は、自分のツイッターで「腹切り」と言う言葉で日本を批判した。「真の男なら伝統に従って腹切りでもしたらどうか。最近は口ばかりが達者なようだ」と。
ロシア外務省も「日本は第2次世界大戦の結果に反対し続けている」とコメントした。ロシアは日本が先の大戦でロシアに敗北した結果、北方領土を失ったに過ぎないとするスタンスである。つまり、戦後体制によって領土が決定したと言っているのである。裏を返せば、領土を返してほしければ、口先ではなく力尽くでかかってこいと言うことである。ロシアと戦争して勝てば返すと受け取れるが、これが戦勝国が支配する国際連合体制の本質であり現実である。日本は連合軍に全面降伏した為、領土を失ったのだ。ロシアの善意に縋るしかない。「この現実を受け入れろ」とロシアは言っているのである。
それに対し、アーミテージが、日本部長をする「戦略国際問題研究所」の分析結果を、安倍首相に伝えられた痕跡がある。「近く、限定核戦争を想定する極めて大きな戦争が起きる可能性が強くなっている。もちろん、アメリカが勝利するだろうが、それでもアメリカ一国では難しい。日本の協力が不可欠だ。これによってアメリカとイギリスと日本は、旧体制の世界を変えることになる」
これは今の古い領土体制が変わることを意味する。日本がアメリカと一緒に次の戦争に参画すれば、戦勝国の一員となり、新しい国際秩序体制の中で領土を取り返すことができると言うのである。
安倍政権の強行採決の裏には、TPPの秘密協定が隠されていた。本来、経済と軍事は表裏一体で、アメリカの軍産複合体で分かるように、切り離せないのが国際常識である。それを戦後の日本は切り離し、軍事をアメリカに任せてきただけなのである。
TPPには表に出せないブラックボックスが隠されている。アメリカ領の「経済協定=軍事協定」であり、アメリカは軍事力による世界統一の樹立を、環太平洋を足場に起こす気でいる。2015年9月19日、参議院本会議で「安全保障関連法」の採択が行われ、自民党と公明党と次世代の党などの圧倒的多数で可決成立したが、10月5日の「TPP大筋合意」がリンクする。さらに言えば、「武器輸出三原則」の実質廃止ともリンクする。
武器輸出三原則とは、1967年に佐藤栄作内閣が武器輸出を「共産圏、国連決議で禁止された国、国際紛争の当時国と恐れのある国」に禁じる方針を明らかにし、76年に三木内閣がこれ以外の国へも輸出を禁じた。
これを2014年4月、安倍内閣が武器輸出の原則禁止から、解釈次第で認めるように変更したのである。これで日本は死の商人の仲間入りをしたことになる。「サンダーバードが宿敵ザ・フッドと手を組んだ」と言うと分かりやすい。
この一連の流れが、アーミテージの「戦略国際問題研究所」の指示通りと言うのが大問題だった。特に、安全保障関連法によって集団的自衛権の行使が可能となり、戦後日本の安全保障政策が大きく舵を切ったからである。自衛隊がアメリカ主導で世界中の何処へでも派兵され、戦闘に参加し、人殺しが出来るようになったからである。
特に限定核戦争では、後方支援など建前にすぎず、いったん戦闘に巻き込まれたら最後、専守防衛の下で戦闘せねば自衛隊員が全滅してしまう。つまり、アメリカ次第で自衛隊はどうにでもなるのである。一旦、同盟を結べば、足抜けは絶対に許さない。極秘暗号も情報もすべてをアメリカと共有するからである。
TPPは世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏になるはずだった。日本だけが集団的自衛権を発動できないでは困ることになった。しかし、安倍首相は憲法を踏みにじって、その障壁をなくした為、一気にTPPの合意が進み、甘利明内閣府特命担当大臣も余裕の顔でTVに出ることができた。TPPの本質は米やバターや牛肉価格ではない。ブラックボックスが存在するのである。
TPPがペリーが黒船で来て不平等条約を結んだのと似ている。日本がアメリカ主導の新国際体制に入ることを意味し、ロシアと中国と太平洋を挟んで対峙する体制に加入したことを示唆するはずだった。アメリカはイギリスを除くEUと、ロシア・イスラム諸国を衝突させ、それらの勢力を世界の中心から抹殺、弱体化させる戦略を持ち、イスラエルをそのためのトリガーに使う計画を推し進めていた。、