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「リッチスタン」とは何か(5)

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(5)アメリカの日本再占領① ペリー派遣の意図

 アメリカは太平洋に乗り出して以降、圧倒的な利権を他国に譲り渡す気は毛頭なかった。なぜなら、アメリカの世界制覇の成否が太平洋にかかっているからである。南北戦争後の統一されたアメリカは、強力な軍事力によって欧州列強の植民地争奪戦に参戦した。太平洋を制覇するには、日本を落とさねばならない。その国は、「鎖国」で国を閉ざし、その意志は頑強で、長崎の出島を除けば、日本を知るすべはほとんどない。

 徳川家第6代将軍家宣と、第7代将軍家継に仕えた新井白石は、海外に目を向けた「西洋紀聞」を示し、第8代将軍徳川吉宗は、その白石の意図を呑んで漢訳蘭書の輸入禁止を緩和した。それ以降、青木昆陽や野呂元丈など蘭学者が輩出し、オランダと出島で貿易を行った。出島は唯一の海外との懸け橋の役割を果たしたが、鎖国に関して少し説明する必要がある。 

 鎖国という用語は、後世の作である。1641年、第3代将軍徳川家光が「海外渡航禁止令」を発布するまで、3段階で国を閉ざす体制が出来上がった。それが鎖国の名を生み出し、海外と人の行き来が禁止され、貿易も極端に制限された。それでも、幕府はオランダにだけは窓口を開いた。その理由は、オランダがプロテスタント教国で、カトリック教国だったポルトガルと違い、積極的に布教を行わなかったからである。オランダは、ポルトガルやスペインの領土的野心を幕府に通告し、自国を政治的野心のない商業主義国とアピールした。これにより、幕府は欧州の情報をオランダから入手し、オランダも日本と独占貿易を確保する関係が生まれた。1637年の島原の乱で、オランダは幕府に協力し、籠城中の日本人キリスト教徒に向けて砲撃した。

 当時のアメリカは、日本に関する情報はオランダから仕入れていた。シーボルトが日本について書いた論文は、ヨーロッパで数多く発行していた。当時の欧米諸国は、日本人以上に情報を共有していた。特に、アメリカは貪欲で、日本と貿易していた清からも情報を入手し、日本近海まで鯨を追う捕鯨船からも情報を得ていた。日本人の漂流民は、貴重な情報源で、幕末期もジョン・万次郎を助けた捕鯨船から情報を得たアメリカは、後に「日米和親条約」の協力・通訳者として万次郎を徹底教育する。

 ペリーを送り出したミラード・フィルモア大統領は、「米墨戦争」で併合された領土に、「奴隷制度」を導入しない法案に猛反発した男で、黒人の権利を排除する「逃亡奴隷法」まで定めた人種差別論者だった。フィルモア大統領は、「第1次ララミー砦条約」を締結させ、多数のインディアン部族の領土を奪った政治家だった。その男の命令で、ペリーが日本に派遣された以上は、そこにアメリカの底意が隠れている。

 すでにアメリカは、ネイティブ・アメリカンの土地を征服し、次に太平洋を挟んだ日本の征服に意欲を燃やしてもおかしくない。その先にあるのはアジア全域の征服だからである。

 欧州列強より先にアメリカが日本を開国できたのはなぜか? 歴史的に砲艦外交で日本に開国を迫ったのはロシア帝国だった。幕府の優柔不断な解釈戦術に惑わされたロシア帝国は、通商を無効と告げられる。そういう経緯を見ていたアメリカは、最初から日本に威圧感を与えるため、当時の最新鋭外輪式フリゲート艦「黒船」を率いてくる。この黒船来航以降が日本の幕末である。

 1844年、オランダさえ、国王の国書を携えて鎖国をやめるよう幕府に忠告したが、国際外交に不得手な幕府は、前例がないとして黙殺した。オランダが開国を目的としたペリーが来航した事実を伝えても、老中は成す術もなく無駄に時が過ぎ去り、琉球にペリーが上陸しても、論議が進まない状態だけが続いた。もはや徳川幕府には知識もなければ、分析力も実行力もなかった。言い換えれば、アメリカが幕府を演出して、明治維新を作ったことになる。

 実はここが重要で、アメリカは数百年をかける外交戦術にたける国ということである。一方、日本は一度決めたら変えない杓子定規か、優柔不断でしか外交ができなかった。歴史的に、アメリカの日本開国の目的は、アメリカの捕鯨船の補給基地として利用したかったからとされる。当時の捕鯨は鯨肉を食べる目的ではなく、燃料になる鯨油を抽出するためだった。だから、白人は鯨肉を食べる日本を残酷と非難し、エコの観点からも許さない。しかし、白人は油を目的に鯨を殺し、その肉をすべて海に捨てていた。そんな白人に食文化に口を挟む資格はない。事実、捕鯨を禁止した結果、ザトウなどのひげ鯨の数が激増し、最小単位の沖アミが不足して魚類全体の生態系が狂ってきている。

 アメリカの日本における開国の目的は、蒸気船がアメリカから中国まで直行する中継基地として日本を利用したかったからとされる。アメリカ人は確信した。「日本人は島国根性で脅しに弱い」と。


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