(4)カゴメ探偵団が迫った徳川幕府と天海の陰謀②
童唄「カゴメ唄」が暗号ならば、そこに何が隠されているのか? 暗号にしてまで隠さなければならない大切なものと言うことになる。部外者には知られては不味い代物が存在するからこそ、高度な暗号歌が作られたと言っていい。もし仮に、「カゴメ唄」の作成に天海が関わっていたとすれば、それは徳川幕府に関わるものだったに違いない。江戸幕府を支える経済的な原資、すなわち財宝である。
通常、江戸幕府の運営資金は江戸城の金庫に収められていた。必要に応じて、そこから資金運用がなされるわけだが、いざという時のために、極秘資金なる物も存在する。世に言う「埋蔵金」である。日本列島には、武田信玄や豊臣秀吉の隠し財宝など、現在のお金に換算して何十億円、計算によっては1兆円を超える埋蔵金が存在するという。「カゴメ唄」とは、徳川埋蔵金のありかを示した暗号歌ではないかと考えられるのである。
日光には、名前の由来になった二荒山神社がある。ここには鶴と亀の置物がある。「籠の中の鳥」とは、まさに隠された徳川埋蔵金を象徴しているというわけである。かって、日本テレビの番組「謎学の旅」で、徳川埋蔵金と「カゴメ唄」を結びつけた仮説に基づき、実際に探査が行われたことがある。
暗号の解読はこうである。まず、「籠の中の鳥」は鶏だと推理する。徳川ラインを引き合いに出しながら、日光東照宮の装飾を暗号として解読する。最終的には、日光東照宮を一つの頂点に、周囲には6つの聖なる山(男体山、庚申山、地蔵岳、石裂山、鶏鳴山、夕日岳)があり、これらを直線で結ぶと籠目=六芒星となることに注目する。その中心には「内の籠」なる湿地帯があることから、ここに徳川埋蔵金が隠されていると結論する。
かくして、この仮説を実証するために、最新の地中レーダーを投入し、問題の場所を探索し、番組は最高潮に達する。しかし、残念ながら地下に構造物があることを示すデータさえ得られなかった。
日光を聖地として選んだのは天海である。「カゴメ唄」の暗号を仕掛けたのは天海だけとは限らない。天海のほかにも呪術者はいた可能性はある。彼は組織の一人にすぎない。背後には、大きな組織があり、はるか古代から連綿と国仕掛けを行ってきた。日光はそのために用意された聖地だった。
太陽信仰の聖地として位置づけられた日光を、徳川家の霊廟として目を付けたのが天海である。それまでの政治の中心は関西で、都は京都にあった。関ヶ原の戦いで、勝利した東軍の将である徳川家康は幕府を関東に置く。京都には呪術的な結界が張り巡らされているように、江戸城もまた密教と陰陽道に基づく仕掛けが天海によって幾重にも施された。特に徳川家康が没した後、天海は結界の総仕上げに入る。徳川家の本貫である世良田を起点にして富士山を結ぶ徳川ラインを引き、徳川家康の遺体を南西の久能山東照宮に一時埋葬すると、今度は東北の日光東照宮に移して埋葬する。奥に宮の立替に伴い、その一部を世良田に運んで、世良田東照宮を建立した。また、江戸城から見て日光東照宮は真北に位置する。日光東照宮の陽明門もまた、その真北に本殿がある。ゆえに、夜になると、江戸城及び陽明門から見た北の空には北極星が輝く。道教において、北極星は不動の星、すなわち天帝の星である。徳川家康は大将軍として天下に君臨している。それを天海が演出したのである。
祭神である徳川家康は死後、「東照大権現」と言う神号を贈られる。「東照大明神」の候補も上げられたが、天海が異議を申立て、「東照大権現」とすることを強行に押し通した。天海がこだわったのは、もう一つの名である。「東照」とは「アズマテラス」と読める。試に「ズ」を抜くと「アマテラス」になる。つまり、「アマテラス」とは「天照大神」の事であり、日本における神道の最高神にして、天皇家の祖神である。その総本山はどこか? 伊勢神宮である。
天海が仕掛けたのは、東国の伊勢神宮である。西国の都は京都であり、これに対する東国の都、江戸幕府は関東、今の東京に開かれた。京都に住まう天皇家の祖神「天照大神」を祀るのが伊勢神宮であるのに対し、東京に住まう徳川家の祖神たる「徳川家康」を祀るのは日光東照宮なのである。
「アマテラス大神=天照大神」と「アズマテラス大権現=東照大権現」
天海は徳川家康を天照大神になぞらえた。古代から連綿と続く太陽信仰の聖地を完成させるために、天海は徳川幕府を動かし、東国に呪術的な結界を張り巡らした。「カゴメ唄」の根底には、天照大神の存在が関わってくる。幻想作家、東雅夫氏率いるカゴメ探偵団が行き着いたのは、まさに天照大神を天照大神たらしめるドラマ「天岩戸開き神話」だった。