(8)カジノ王トランプの栄光と転落
1982年に、トランプはアトランティックシティに巨大ホテルと併設するカジノビルを持つ「トランプ・プラザ」を造った。これを成功させて、カジノ王とも呼ばれた。この後「トランプ・キャッスル」を建て、さらに「タージ・マハール」を建てた。トランプがカジノ経営に乗り出したきっかけは1975年である。この年、カジノの都ラスベガスの2つのヒルトンホテルで従業員のストライキが起きた。それでヒルトンの株価が大きく下がった。トランプは、ヒルトンが2つのホテルのストライキで、株価に大きな影響したことを不思議に思った。調べてみると、ラスベガスの2つのカジノ付きのホテルだけで、ヒルトングループ全体の純益の40%近く上げていることが分かった。この収益性の高さに目を付けたトランプはカジノへの進出を決意した。この翌年1976年からアトランティックシティでカジノが合法化された。カジノができる前のアトランティックシティは、江の島や浜名湖の競艇や浜松オートのあるような町だった。
カジノ経営のノウハウの無いトランプは、ステイーブ・ウィンのラスベガスのカジノ「ゴールデンナゲット」から幹部社員たちを引き抜いた。それでウィンの怒りを買った。ウィンは、ミスター・ラスベガスとまで言われる有能な賭博場経営者である。ウィンは大富豪ハワード・ヒューズのラスベガス買収計画に乗って大きな利益を上げて、のし上がった男である。ヒューズは1966年に所有する航空会社TWAを売却して作った当時の500億ドル(今の60兆円)で、ラスベガスのホテルとカジノを次々と買収した。このヒューズの買収によって、ウィンが持っていたホテルの株が4か月で10倍になった。ウィンはヒューズの事業を先読みしてビジネスを拡大した。この手腕を見込まれて「ゴールデンナゲット」の社長に就任する。経営不振に陥っていたカジノを再建し、名実ともにカジノ王になった。
アメリカのカジノホテルの歴史は1931年に遡る。この年に大恐慌で失業者対策で「フーバーダム」の建設が始まった。砂漠の街ラスベガスに多くの労働者が集まり、同時に飲酒、ギャンブル、売春が解禁となった。
1944年に、イタリア系マフィアの大親分のラッキー・ルチアーノの子分で、ユダヤ系のベンジャミン・シーゲルと言う男が、ラスベガスに一大歓楽街を作ろうと計画した。バグジー(虫けら)と言うあだ名で呼ばれていたシーゲルは、ハリウッド芸能人たちと派手な交際を持ち、ラスベガスをハリウッドのような街にしようと考えた。彼は、マイヤー・ランスキーやラッキー・ルチアーノなどの大物マフィアたちから資金を集め、「フラミンゴ・ホテル」を完成させた。(1946年) ユダヤ系マフィアの創始者であるマイヤー・ランスキーの跡継ぎが、今のマイケル・ブルームバーグである。ニューヨーク市長のジュリアーニはラッキー・ルチアーノの後継者であり、今も副大統領候補に名前があがる。
バグジーのフラミンゴ・ホテルはカジノ以外の複合娯楽施設の先駆けである。その後のカジノホテルの原型になった。バグジーはホテル建設資金の流用をニューヨークのボスに疑われて殺されてしまう。このバグジーを主題にした映画が「バグジー」である。
マフィアがその後もラスベガスを支配したが、1966年にハワード・ヒューズが乗り込んできた。ヒューズは自分の政治力でカジノ・ライセンス法を改正させ、表向きはカジノからマフィアが消え、バロン・ヒルトンの大手ホテルも参入し、ラスベガスは一大歓楽街となった。しかし、1990年代にトランプはカジノから足を洗うのである。儲からなくなったからである。
カジノの世界を描いた映画が「カジノ」である。この中にトランプらしき人物も描かれている。この映画にはイチカワとい日本人が出てくる。イチカワはカジノで大金を賭けて、全てを巻き上げられた。このイチカワも実在した人物である。柏木昭男と言う不動産屋である。1992年に自宅でプロの殺し屋に日本刀で惨殺された。
1990年に、この柏木昭男をトランプがアトランティックシティに招き寄せてトランプ・プラザでバカラ賭博の大勝負をさせた。ギャンブラー対カジノホテルの真剣勝負である。柏木はバカラで1回に20万ドルと言う高額の掛け金を張り続けて最終的に 柏木が勝った。トランプ・プラザ側は、柏木に600万ドルの負けを喫した。この3か月後に、再び柏木がトランプ・プラザに来て2回目の勝負が行われた。この時は柏木は1000万ドル負けた。その2年後に柏木は、河口湖の自宅で殺し屋に20か所以上を刃物で切られた死体で発見された。(1992年1月3日) 犯人は捕まらず2007年1月に時効が成立した。柏木昭男は総額900万ドルの未払いの負け金がアトランティックシティやラスベガスのカジノにあった。そのうちの約400万ドルがトランプ・プラザに対するものである。だから、トランプが殺させたのではないかと今でも噂されている。
トランプは1994年に、横井英樹を騙して4000万ドルでエンパイア・ステイトビルの権利を共同購入して、自分だけ投げ売りして大儲けしている。横井英樹は1円も取り戻せなかった。1990年にロックフェラー財団が苦境に立って、ロックフェラー・センターを三菱地所に20億ドルで株式を買い支えさせた。その後破綻した。デビッド・ロックフェラーはそれを10分の一の値段で買い戻した。三菱地所はすべての権利を失って撤退した。この後ロックフェラー・センターとトランプ・プラザもなぜか経営が回復した。不動産業は博打の世界である。カタギの人間が近寄れる世界ではない。