(4)トランプ氏の移民差別発言は、なぜ支持されたのか?
トランプ氏の支持層は高卒で白人、それに差別に不満を抱いている人々たちである。「トランぺッター」と呼ばれるトランプ氏の支持者たちは、主流の保守派への迎合を拒否し、反トランプ派を困惑させている。最大の支持層を形成しているのは高卒者である。とはいえ、大卒者がトランプ氏に背を向けているわけではない。大卒者の中でも支持率トップであることが多い。トランプ氏支持には、可動式のトレーラーハウスで暮らす人が多い。農業や建設業、貿易業、製造業などの古い産業の雇用が多い地域ほどトランプ氏の支持率が高い。全米選挙調査が1月に行った試験調査では、白人が差別されていると信じていたりする人ほど、トランプ氏に投票する確率が高かった。
このようにトランプ氏はアメリカの下層白人から大変な人気がある。定職がない貧乏白人もトランプ氏を支持している。この貧乏白人層がメキシコから潜り込んでくる違法移民(イリーガル・アライブ)に仕事を奪われていると怒っている。そこでトランプが「国境線にウオール(高い壁)を造れ、その費用はメキシコ政府に出させる」と言った。これは明らかに人種差別主義である。でもトランプはアメリカ国民の本音を言ったのである。
アメリカの白人比率が下がっている。1980年代には80%が白人だった。2016年には68%まで下がっている。白人比率は2020年以降には60%を切るとしている。アメリカの人口3億人のうち、2億人は白人である。黒人が4000万人(13%)でもう増えない。ヒスパニックが4500万人いる。さらにイリーガル・アライブ(違法移民)が3500万人ぐらいいる。そのまま違法就労している。彼らの多くは南米系である。アジア系は1000万人(4%)で、この数はもう増えない。
2014年にオバマ大統領が、ヒスパニックの移民受け入れを断行した。違法滞在者(イリーガル・アライブ)や、ビザ延長しないでそのまま居座って労働している人(オーヴァーステイヤー)に滞在を認めたのである。とりあえず3段階に分けて永住権、市民権も与えた。このオバマ移民緩和政策で500万人ぐらいが恩恵を受けた。しかし、違法入国移民の子供たちに対して、これらの市民権付与が行われたのであって、違法入国した親たちに対してはこれまでどおりである。本当は裏があって、南米系のイリーガル・アライブたちを市民権と引き換えに傭兵にする計画があるようである。もうアメリカの正規軍は外国の戦場にはいきたがらないからである。
ヒスパニックとは中南米人全部を表す。これにはカリブ海諸国の人間も含む。メキシコ経由で南米諸国の貧しい人々が出稼ぎのつもりでアメリカに流れ込んでくる。プロリダの海の方からも船で流れ込んでくる。だが、こちらはアメリカのコースト・ガード(沿岸警備隊)がほとんど捕まえてしまうから厳しい。だから、メキシコ国境から来るのである。国境地帯に長い10キロメートルぐらいの洞穴、地下トンネルが沢山あって、そこを通ってくる人たちが今もいる。だから、「国境線に本格的な高い壁を造れ」という話なのである。
これまでに流入してきたヒスパニックまではアメリカ国民とする。しかし、もうこれ以上は受け入れられないと言うのがアメリカ国民の意見である。それをトランプ発言が体現しているのである。
「アメリカは白人の国なんだ。これ以上は入ってくるのはやめてくれ」と言うのは白人たちの本音である。ヒスパニック系にも「先に来た私たちまではいい。だがもう新しく入って来ないでくれ」と言う人たちが沢山いる。
マルコ・ルビオと言うヒスパニック系の政治家がいる。共和党内で大事にされて大統領候補を目指した。だが、ルビオは、ワシントンのネオコン派が初めから育てた南米ネオコンと呼ぶべき操られた人間だった。ルビオは共和党候補者の中では最もタカ派である。ルビオはブッシュ=チェイニー路線の継承者として期待されていた。ところが各州の予備選で全くダメだった。
3月にルビオが撤退して、共和党内の争いは、トランプ、クルーズ、ケーシックに絞られた。トランプとクルーズの激しい舌戦になった。4月5日のウィスコンシン州ではクルーズが勝ったが、4月19日のニューヨーク州でトランプが60%の票を取って圧勝した。4月26日の東部5州でも全て6割前後の得票率で大勝した。そして5月3日のインディアナ州予備選挙でも勝利した。この日クルーズは撤退を表明した。クルーズ撤退の翌日、ケーシックも撤退してトランプの指名獲得が確定した。しかし、共和党全国委員会(RNC)のプリーバス委員長は「まだトランプ氏は暫定的な党候補者だ」と言う態度だった。