(12)ベネゼエラ乗っ取りを画策するアメリカ
2018年末からトランプ大統領は「国家非常事態」を宣言した。理由は簡単である。アメリカに金がないからである。ドナルド・トランプは、破綻した企業に乗り込んできた「再建担当の経営者」という側面が強い。ゆえに「金になる」と思えば、ダボハゼの如く飛びつき、金に変えようとする。
トランプはアメリカの大統領という世界の影響力を持つ首脳である以上、彼の行動原理は世界を混乱させるだけとなる。
事実、2019年2月27日、ベトナム・ハノイで行われた2度目の米朝首脳会談も「決裂」に終わった。それだけではない。トランプ大統領は、率先して「ベネゼエラ乗っ取り」の謀略に加担し、他国の富を奪い取ろうとした。
これが意味するのは、トランプ政権がディープ・ステイト(闇の支配者)に取り込まれた事実であろう。
2019年1月23日、政治混乱が続く南米ベネゼエラでは、大規模な反政府デモが行われ、ファン・グアイド国会議長が暫定大統領就任を宣言、それをトランプ米大統領がすぐさま承認した。しかし、ベネゼエラの軍や国民、それからロシア、中国、インド、メキシコなど多くの国が米政府の内政干渉を「クーデターの企て」だと非難し、結局アメリカの外交官が72時間以内にベネゼエラから退去するよう命じられる事態となった。
これはベネゼエラがハイパーインフレと食糧難など国家機能が破綻していることを理由にアメリカが乗っ取りを企てているための対処措置なのだ。アメリカによる乗っ取りの理由は、世界最大の石油資源が目的である。ベネゼエラの石油量はサウジアラビアやカナダを抜いて世界第1位、3030億バレルにも達している。しかしベネゼエラの原油の質が悪い。そのため、アメリカ企業による高度な精製が不可欠であり、それが無ければ輸出はおろか国内消費にも使えない。そこでアメリカは長年、ベネゼエラの原油自体は輸入しても、ベネゼエラでの原油精製を拒絶することで締め上げてきた。ベネゼエラにとっては世界1の原油は自前で精製できない以上、「宝の持ち腐れ」となるが、アメリカにすれば「宝の山」なのである。そのため、トランプ政権は、今の反米左派ニコラス・マドゥロ大統領を追い出し、ベネゼエラにクーデターを仕掛け、乗っ取ろうと計画しているのである。
現行のマドゥロ政権は1971年のニクソンショック以降続く「石油ドル体制」から離れようとしてきた大統領である。アメリカはベネゼエラからの石油輸入にかなり依存してきた。FRBが無尽蔵に刷り続けてきた米ドル紙幣でベネゼエラの石油が買えなくなれば大変なことになる。今後もドル紙幣で買うためには、マドゥロを排除する謀略に飛びついたわけである。
アメリカの国益優先であろうが、やっていることは詐欺か横領である。このままベネゼエラを混乱させることで、「現地の治安維持」などと言った名目でアメリカが軍隊を送り込んで油田を制圧する予定であったのだろう。その証拠に、ポンペイオ米国務長官がレーガン政権で国務次官を務めたエリオット・エイブラムス氏を特使に指名している。エイブラムスは、この手の謀略のスペシャリストである。
それを阻止するためか、ロシアは既にベネゼエラに核爆弾搭載可能な爆撃機を配備、マドゥロ大統領の身の安全を確保するためにロシア企業の傭兵部隊を送り込んでいるという。
アメリカの軍事政権側は、ロシアと「キリスト教同盟」を結ぶために接近してきた。その一方で、資源大国であるロシアは石油ドル体制では敵対関係にあり、精油の主導権を巡って激しく争ってきた。トランプ政権と完全に決裂したのは間違いなく、トランプ政権を支えてきた軍事政権も愛想を尽かしたことであろう。