(35)「LP音楽療法」で全身の皮膚が震える!
栄養療法の権威は、音響療法の権威でもあった。目の前には、人間の背丈くらいある超大型のスピーカーがある。そこから突然、ジャマイカ音楽が鳴り響いた。男性歌手ハリー・ベラフォンテのボーカル。かすれたセクシーな歌声が音響ルームに充満した。ビンビンに全身の皮膚が音の響きに反応して音楽が入って来る。
大音量の声は、音楽というより、音圧である。歌声というより大迫力の音の韻律であり、これは耳ではなく体で聴く音楽だと船瀬氏は納得したという。つまり、音楽鑑賞をはるかに凌駕する音楽療法である。
「凄すぎるでしょう?」と、この音響ルームの主、山田豊文氏。京都の杏林予防医学研究所所長。彼こそは代替医療に関する研究と啓蒙における日本の第一人者である。その健康と栄養理論は、日本屈指と言ってよい。
彼が主催する研修講座には、全国から現役の医師たちが殺到している。「食事で治せない病気は、医者もこれを治せない」(医聖ヒポクラテス)
現代医学の限界に悩み、挫折した医師たちが、山田氏の研究所のドアを叩く。その一泊二日の研修講座は、募集と共にあっという間に満杯となる。
山田氏の名声を高めたのは、プロ・アスリートたちに対する栄養指導の成果である。プロ野球選手から力士まで彼の指導により劇的な成功を収めた例は多い。
プロ野球では、落合博光選手が三冠王を獲得するのに食事指導で大きく貢献した。
角界では、横綱白鵬の超人的な活躍を支えた。白鵬は山田氏の徹底した栄養指導やファステイングを真摯に実行し、8回連続優勝の偉業を成し遂げた。
白鵬の圧倒的な強さの背景には、山田式栄養指導があったのである。よって、白鵬の山田氏に対する信頼と感謝は深い。二人は終生の友として友情を分かち合っている。白鵬は山田氏を故郷モンゴルに招待して手厚くもてなして、親交を深めている。
そんな山田氏の活躍に、船瀬氏は一目も二目も置いていたという。そして、指導では適切なアドバイスをいただく間柄だったという。彼から誘いがあった。
「京都に来て、ぜひうちの音楽を聴いてください。凄いですから。病気も一発で治りますよ」
船瀬氏は山田氏について、栄養療法では日本第一人者と、高く信頼してきたが、音楽療法を行っているとは気づかなかったという。まず、京都のご自宅を訪問し、その専用音響ルームに圧倒された。
「このスピーカー、中に人が入れそうですね」(船瀬氏)
「タンノイです。日本に5セットしかありません」(山田氏)
タンノイと言えば、オーディオマニアなら垂涎の逸品。英国老舗のスピーカーメーカーで、その音響の響きは、他の追随を許さない。
「タンノイは、他のメーカーと異なり、目指しているのは原音の再生ではない。その音響の響きと迫力こそが持ち味です」(山田氏)
「だから全身が音に包まれ、耳というより体で聴いている感覚ですね」(船瀬氏)
「そうです。これはLPレコードのアナログだから、体が反応し、感動するのです。デジタルのCDだったら、こんな体験はできませんよ」(山田氏)
彼のLPレコードへの傾倒ぶりは凄い。リスニングルーム隣のレコード庫の棚には1万枚ものLPレコードが、実に整然と並べられている。そして、世界の名品・タンノイをひたすら愛し続けて40年余り。
「タンノイの最高峰「オートグラフ」は、いつの日にか手にしたいと思っていましたが、部屋の広さなどの制約もあり、半ば諦めていました」(山田氏)
しかし、ついに決定的な出会いがあった。京都にハイファイ堂というヴィンテージオーディオの店ができた。そこに憧れの「オートグラフ」実物があった。即、購入。専用のリスニング・ルーム(石井式)も作った。不安と期待でLPレコードに針を降ろす。曲はマーラー交響曲第二弾「復活」。その音は想像をはるかに超えていた。新しいリスニング・ルームで再生される音は、今までとは全く別物だった。
「最後の一音に至るまで、低音も中音も高音も、全く歪まずに、あの感動的なマーラーの音楽が、そのままに再生されたのです。聴き終わった後、全身の細胞が感動で震え、動けなくなりました」(山田氏)