(62)「海の中から現れる獣」
ヨハネが見ていると、海の砂の上に巨大な「獣」が出てきた。その獣にも「十本の角」と「七つの頭」があり、「十の冠」をかぶっていた。冠は権力の象徴で、10人の権力者を示す。このことは竜と同じである。
「わたしはまた、一匹の獣が海の中から上がって来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の冠があり、頭には神を冒涜する様々の名が記されていた。」(新約聖書「ヨハネの黙示録」第13章1節)
「頭には神を冒涜する様々の名が記されていた」とあるように、10人の王はヤハウェ(イエス・キリスト)に逆らう暴君である。その10人を支配する獣を、ヨハネは「豹」と「熊」と「獅子」が合体した生き物と言っている。もちろん象徴だが、こういう象徴的合体生物のことを「キメラ(キマイラ)」と呼ぶ。
スフィンクスも「①人の顔、②ライオンの胴体、③牛の尾、④鷲の翼」を合体させたキメラであり、ギザの丘に立つ大スフィンクスは、大昔は両翼を持っていたはずである。
かといって、エノクが大スフィンクスを偶像礼拝したわけではない。大スフィンクスは、「人、獅子、雄牛、鷲」を合体させた神の戦車「メルカバー」の構造と同じなのである。大スフィンクスは三大ピラミッドと共に、カッバーラを具現化したものだったのである。
「私が見たこの獣は、豹に似ており、足は熊のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた。」(新約聖書「ヨハネの黙示録」第13章2節)
黙示録に再三登場する竜と獣の特徴については、旧約時代の預言者ダニエルも語っている。
ダニエルは紀元前606年、エルサレムからバビロンに捕囚された群衆の中にいた少年で、やがてバビロニアのネブカドネザル王の夢を説き明かす預言者となる。そのことで王の絶大な信用を得るが、その後、ダニエル自身も示現を見ることになる。それが以下の夢である。
「ものすごく、恐ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があった。その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。」(旧約聖書「ダニエル書」第7章7~8節)
この中に、獣の頭に生える「十本の角」が登場する。そこにもう一本の角が生えてきたため、三本が抜け落ちたとあり、新たに生えた角には人の目のようなものが並んでいたという。同時にダニエルは、その異様な示現の答えも神から受けていた。
「十の角は、この国の立つ十人の王 その後にもう一人の王が立つ。彼は十人の王と異なり、三人の王を倒す。彼はいと高き方に敵対して語り いと高き方の聖者らを悩ます。」(旧約聖書「ダニエル書」第7章24~25節)
つまり、「十の角」の正体は人であり、権力を持った王、支配者、あるいは皇帝のことを指している。ヨハネも黙示録の中で同じことを語っている。黙示録は終末の日に起きる出来事でもあるため、角は大統領、首相、独裁者などの権力者、あるいはその人物の国を指している。さらに言うなら、共同体、条約国、同盟国、経済圏をも視野に入れなければならない。
しかし、10本の角の記述で最も重要なのは、最後の出てきた角である。この角は最も強く、古い10本の角の内3本を倒してしまう。
遅れて出てきた超大国になった国と言えば、アメリカ合衆国以外に考えられない。事実、アメリカは当時の最大の帝国だったイギリスに勝って独立を果たし、帝国主義に狂った日本に勝って太平洋を制覇し、ファシズム国ドイツに勝って大西洋を制覇した。
しかし、その後アメリカが完全に勝利した例は一度もない。「ベトナム戦争」では敗戦国さながらにサイゴンから撤退し、「アフガン戦争」もタリバンを根絶やしに出来ず、「イラク戦争」もベトナム戦争のように泥沼化している。
現在、圧倒的戦力と反比例するように、アメリカの威信は落ちる一方である。もしアメリカ軍がイラクから撤退したら最期、アメリカの国際的影響は著しく低下することだろう。そうであっても、この国は唯我独尊で押し進む気でいる。アメリカにとっての世界は、アメリカだけだからである。だからこそ、何の疑いもなく世界をアメリカ化させるグローバル化を推し進める。
だから、中東問題で世界中から非難の声が上がれば、アメリカは国連から離脱し、19世紀初頭のモンロー主義に戻るかもしれない。モンロー主義は欧米両大陸の相互不干渉を主張するアメリカの外交原則で、一言でいえば「孤立主義」である。つまり、現在の「世界の警察」的立場を放棄して、「勝手にやれ」と、世界を見放すのである。
黙示録は、国際舞台から撤退す超大国について、次のように記している。
「この獣の頭の一つが傷をつけられて、死んだと思われたが、この致命的な傷も治ってしまった。」(新約聖書「ヨハネの黙示録」第13章3節)
世界から警察がいなくなった瞬間、イスラム原理主義たちは、目の上の瘤がなくなったことで一気に活気づく。テロは際限なく拡大し、テロで世界をイスラム化させようと、やがて「ジハード(聖戦)」を各国に仕掛けてくる。最初の矛先を向けられるのは、長年の宿敵だったヨーロッパのキリスト教諸国だろう。イスラム原理主義にとって、バチカンを中心とするキリスト教国は、ユダヤ教徒同様の宿敵であり、そのためにイランは核兵器を開発してきた。
ヨーロッパ連合「EU」は、イランを中心とするイスラム連合軍に、電撃的に攻め込まれる危険性がある。イスラム連合軍の背後にはロシアがいる。ロシアにとっては、EU拡大で失った旧ワルシャワ条約国を取り戻す最大のチャンスが到来したのだ。
この戦争が何と呼ばれるかはわからないが、イスラム原理主義者は、異教徒を焼き滅ぼす核兵器の使用に何らの躊躇もしないだろう。EUは核兵器を自国に落とされてはたまらないと、互いに足を引っ張り合う。EUが烏合の衆であることが、この戦争で露呈する。かくして、ロシアが指揮する電撃戦により、NATO軍は一気に総崩れになる。
こうなると、世界はアメリカ軍の出動を懇願するしかない。これを受けたアメリカは、騎兵隊よろしくヨーロッパに向けて進軍する。それが「この致命的な傷も治てしまった」という預言である。
その後、世界は二度とアメリカに逆らえなくなる。この戦争を通して、アメリカ軍が核兵器を超える人類最終兵器「プラズマ兵器」を持っていることが白日の下にさらされるからである。イスラム連合軍は、アメリカのプラズマ兵器の集中攻撃で完膚なきまでに叩き潰されるだろう。いや、焼き滅ぼされるのである。その結果、世界はアメリカが主張する「世界政府」を黙認せざるを得なくなる。アメリカ軍の中東撤退はこのための布石で、計画的撤退だったのである。